「多くの農場から少額の使用料を徴収する形態」に

 この正の循環による競争環境は、「多くの農場から少額の使用料を徴収する形態」に農業クラウドのビジネスモデルを変えていくことになるだろう。現在の農業クラウドは、少数の農場から多額の使用料を徴収するビジネスモデルが一般的である。それが変わり、サービスの多様化と価格低下が進めば、特に若い農場経営者や管理者は農業クラウドを積極的に活用するようになりそうだ。この動きは、企業や個人の農業への新規参入を促進することにもつながる。

 現在、農業クラウドで関心が高いのは、農作物の生産に関するサービスである。この分野は、農作業の現場で使用するものから、生産計画の立案・実行に用いるものまでサービスの幅が広い。注目が集まっているサービスは、温度や湿度、養分の量などをセンサーネットワークで自動計測し、適切な数値を維持しながら栽培する生産管理技術である。農作業の手間を簡略化できることに加え、農家の職人的な栽培ノウハウのデータ化や、遠隔地からの営農指導によって安定的な生産を実現する取り組みなどが本格化していくだろう。

 そのモデルになる存在はオランダだ。耕地面積が日本の約4分の1と小さいオランダは、ITを活用した農業「スマートアグリ」と、農作物の加工技術によって農業の生産性を高めている。オランダは農業輸出が680億米ドル(1米ドル=102円換算で6兆9360億円)と、世界でも米国に次ぐ2番目の規模だ。農業関連の貿易収支は250億米ドル(同2兆5500億円)の黒字で、小規模でも収益性の高い農業を実現している。農業を取り巻く経営環境や自然環境は異なるものの、オランダの農場が実戦しているような効率的な土地利用は学ぶべき点が多そうだ。

 今後、農業クラウドは農作物の生産支援にとどまらず、農家を農業経営者としてサポートするシステムにまでサービス領域を拡大していくことになるだろう。具体的には、「農場経営」と「農作物の販売(流通)」を支援するサービスである。

 農場経営に関するサービスでは現在、納税申告業務の効率化など、会計に関する業務支援が大半である。納税や会計などの定型業務はITによる効率化の効果が出やすいからだ。今後は、定量データに基づく経営分析によって持続可能な農場経営を支援するシステムのニーズが高まっていくだろう。農業クラウドで蓄積された農場経営のデータを活用し、生産作物の検討やコストの見直しといった経営判断を支援する管理システムである。

 農作物の販売関連では、集荷や出荷の管理を中心に販売機会を逃さないマーケティング支援システムが求められる。現在でも直売所システムのように、店頭の在庫が少なくなると追加の出荷を促すシステムは存在している。将来は農作物の市場動向と連動し、より高値で出荷できるタイミングや卸売市場を見つけてくれるような支援システムが広がっていくと考えられる。