先進国を中心とした世界的な高齢化対策やエネルギー・セキュリティーの確保といった社会的課題は、未来の人間の移動手段に大きな影響を与えようとしている。

 中でも大きな関心を集める技術分野が、電動化技術に自動運転技術を取り入れた「超小型モビリティ」である。その名の通り、一人乗り、または二人乗りで移動できる超コンパクトサイズのクルマだ。高齢者の移動手段として普及すれば、地域の活性化につながることに加え、モノやエネルギーの流通のあり方を変える可能性を秘めている。

 市場を起点にした技術ロードマップを体系的にまとめた調査レポート『テクノロジー・ロードマップ 2014-2023』(日経BP社)の著者の一人で、自動車の将来動向をウオッチする早稲田大学 環境総合研究センター 参与招聘研究員の樋口世喜夫氏は、「超小型モビリティ」は異業種によるビジネス機会を提供しながら進化していくと見る。(日経BP未来研究所

超高齢社会、高齢者の自立に必要なものは何か

 一人乗りまたは二人乗りで移動できるクルマ「超小型モビリティ」は、急速に進む高齢社会に向けた人々の生活の足となるだけでなく、地域産業の活性化の手段になっていく。そこで期待されるのは、「ぶつからない、ぶつけない」安全な二人乗りのチョイ乗り超小型モビリティである。

日産自動車が開発した超小型モビリティ「日産ニューモビリティコンセプト」。神奈川県横浜市で2013年10月に始まったワンウエイ型カーシェアリングの取り組みに50台利用されている。

 超小型モビリティの普及は、クルマの使われ方も大きく変えていく可能性がある。既に、超小型モビリティを前提にしたカーシェアリングやモーダルシフトの実証実験が始まっている。こうした動きを核として、多くの異業種がパートナーとなり、楽しく、安全で、賢いモビリティの実現に向けたソリューション・ビジネスの機会が増大していきそうだ。

 超小型モビリティに期待が集まる背景には、先進国を中心にした世界的な高齢化という社会問題がある。その先頭グループにいる日本は、2015年に4人に1人、2050年に3人に1人が65歳以上の高齢者になるという超高齢社会を迎える。高齢者世帯の4分の1は独居と夫婦世帯になると予測されている。

 超高齢社会で健常な高齢者が自立して生活するためには、移動手段の確保が不可欠である。移動の足がなくなると高齢者の4人に3人は自立が困難になるという。

 こうした社会課題の解決で重要な役割を果たすのが、2人乗りのチョイ乗り超小型モビリティである。軽自動車より小さい近距離用のモビリティだ。実際のニーズとしては、最高速度は時速60km程度、それに適した安全性能を持ち、30kg程度の荷物を載せられ、坂道を楽に登れるといった性能が求められている。

 日本における交通事故死亡者は、高齢者が全体の半数を超え、そのうち歩行中が2分の1、自転車乗車中が4分の1、両者で4分の3を占める。また、歩行者と自転車利用者の死者は、自宅から半径500m以内の範囲での事故がほぼ半数に達している。こうした狭い行動範囲の中で自転車より安全に移動でき、かつ夫婦二人の日常生活で使用できる省エネで小さいクルマへの要望は、今後ますます高まっていくだろう。

 現在、メーカーが提案している超小型モビリティのコンセプト車は、バラエティに富んでいる。二人が前後に座る二輪車感覚の四輪車や、前席はドライバーが一人で後席に子供二人の四輪車、左右二人乗りの四輪車や三輪車など、ユーザー志向による発想豊かなコンセプトが数多く登場している。

 超小型モビリティでは、電動化と自動運転が中核技術になる。国内では、ガソリンスタンドの数が最盛期の3分の2となり、近隣にガソリンスタンドがない給油所過疎地は250自治体を超えた。高齢者にとって自宅で充電できるメリットは大きい。超小型モビリティでは電動化が前提になっていくだろう。