NEアワード候補技術紹介(3):
MIMOで感度を高めたマイクロ波生体センサー

岩手大学 准教授の本間尚樹氏

 岩手大学 大学院工学研究科 電気電子・情報システム工学専攻 准教授の本間尚樹氏の研究グループは、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナを使う「MIMO」(multiple inputmultiple output)を応用することで生体センシングを高感度化する技術を開発した。「以前MIMOの研究を手掛けていたときに、人や物のわずかな動きで伝送特性が大きく変動する現象に悩まされた。その現象をセンシングに使えると考えて研究に着手した」(本間氏)。

 本間氏の研究グループが開発したのは、複数のアンテナから照射したマイクロ波の反射波を複数のアンテナで受信し、生体の心拍や呼吸が影響する周波数成分に着目した信号処理を施すことで「人がいるかどうか」「人が何人いるのか」「人がどの位置にいるのか」などを判定する技術である。「見通しが利かない環境や、カメラの設置が適切ではない環境などでの利用を想定している」(本間氏)。MIMOの応用や後段の信号処理の工夫によって、検出範囲の拡大や検出感度の向上を実現した。

空間方向の多重化で感度向上

 開発した技術では、MIMOチャネル(送信アンテナと受信アンテナの組み合わせ)ごとに受信信号をフーリエ変換する。その周波数特性のうち、生体の心拍や呼吸が影響を及ぼす領域を抽出し、最も大きいエネルギーを持ったMIMOチャネルを選択する。具体的には、MIMOチャネルごとに周波数特性の0.02~1.6Hzの部分を積分し、その最大値を選択している。この値がしきい値を超えたら、「検出範囲内に生体がある」と判定する。

 高感度化のために、生体の存在を判定する新しい評価関数も考案した。MIMOチャネルの行列の固有値を周波数ごとに算出し、その0.02~1.6Hzの部分を積分した値を用いる。加えて、送信アンテナが人の方向に動的にビームフォーミングする仕組みも採用した。4個のパッチ型アンテナを水平に並べたアンテナ群を送信と受信にそれぞれ用いて、2.4GHz帯の電波を-57dBmの強度で照射したときに、5m離れたところに人体があることを90%強の確率で検出できた。

開発した技術の基本的な考え方。MIMOチャネルごとの信号を周波数領域に変換し、MIMOによる空間情報と組み合わせて高感度化を実現する(図:岩手大学)