今回は、前回のデンマーク同様、高福祉の国と言われるスウェーデンにおけるかかりつけ医制度を見てみよう。

スウェーデン医療の基本構造

 高福祉の国といわれるスウェーデンの医療制度は、役割分担が極めて明確である。いきなり病院を受診することができない。すなわち、患者が体調を崩した場合には、最初に、県が行っている電話トリアージを受けるのが原則である。また県が運営するサイトにはその他の健康知識が書かれている。そこで、医療機関受診を勧められた場合には、地域医療センターに電話をする。そこでも電話相談は可能であるが、通常予約を取って受診することになる。しかし、予約の状況にもよるが、日本のようにすぐに受診が可能ということはなく、通常は何日か先の予約になる。それでは困る場合には、救急ということで地域医療センターを受診することになるが、その場合でもは何時間も待たされる場合がある。

 17時以降の夜間診療においては、地域医療センターによって行っているセンターとそうではないセンターがある。これは、行政上の役割分担であり、そのセンターの規模の大小や規模は関係ない。従って、住民は遠くにあるセンターまで行かねばならない場合もある。

スウェーデンでの変化

 国民性と相まってか、スウェーデンでは日本のようにすぐに医師を受診することはなかったが、このところ変化が起きている。

 福祉国家のスウェーデンが、福祉の充実と経済的合理性の両立を追求しつつ、そのジレンマに悩みながら試行錯誤を繰り返してきたという見方がある。

 元来スウェーデンはケインズの言う投資の社会化とでも言うべきであろうか、個々人のリスクを社会で受ける、という概念で社会保障を行っており、その背景に、国民の国への信頼があったと言える。そのような国であっても、いわゆるグローバル化の波が押し寄せてきているといってもいい。

 スウェーデンがEUにおいて貨幣統合しない理由の一つには、EUという大きな市場経済、規制緩和に巻き込まれたくないという理由がある。

 スウェーデン在住の福祉研究者の奥村芳孝氏によれば、1990年代の民営化は、株式会社化も含めて、組織の民営化論であり、2000年代の民営化論は、組織も緩やかに民営化していくのであるが、むしろ消費者の選択範囲を広げることが重要という論点に移っている、とのこと。つまり、消費者のニーズが定型的なかかりつけ医受診ではなく、医師や医療機関を選択したいという段階に来ていることが表れているのである。

 このような国であっても待たずに診察を受けたいとか、風邪のように軽い疾患でも医師を受診したいというニーズが徐々に生まれてきており、民間医療保険にも加入者が増えてきている。当然、民営化の流れと相まって、株式会社を含め民間クリニックも数多く生まれてきている。そこでは民間保険の患者は、すぐに受診可能である。逆に民間のクリニックは質の競争を行って、たとえば公的なクリニックではできない最先端の治療を提供し、公的なところから患者を取ろうというのではなく、アクセスのしやすさによる優位性を前面に打ち出して競争している。

 このような、日本と比べてのアクセスの悪さを、医療の質に含めるべきかどうかは難しい。主観的な満足度の範疇であるという見方もありえよう。しかし、スウェーデンでも満足度を追求したい人が増えている、特にベビーブーマー世代にその動きがあるようである。

 このように、高福祉の国であるスウェーデンでも、消費者の欲望が多様化していることが政策にも影響を与えているのである。