日本企業が新興国で生産を行う場合、3つめの落とし穴が最近になって注目されています(1つめと2つめは後述します)。それは生産設備の保全に関してです。東京大学特任研究員の佐々木久臣氏が新著『工場“最強化”のためのノウハウ大全』(日経BP社)の中で指摘しているのですが、新興国に進出した日本企業の多くで今、設備保全の問題が急浮上しているそうです。

 よくある最悪シナリオとして紹介されている内容を同書から引用します。

 「新興国に設立した新工場で、保全体制に関する最悪のシナリオは、以下のようなものであろう。
(1)生産開始後の初期不具合は、日本から支援に来た『現場の神様』たちの尽力により、何とか鎮圧し2年目以降の安定期に入ることができた。
(2)2年目以降は、保全予算の圧縮を行い、保全技能者の教育訓練も十分行わないまま、『意外と行けるではないか』といった帰納法的かつ楽観的発想で生産を続けていく。
(3)現地の技能者は、このような組織にいても、自分の技能を磨く機会はないと感じ、転職していく。
(4)5年目に入った頃から精度不良や設備故障が頻発し始めるが、保全体制が整っておらず、保全部品の在庫も十分に管理されていないため、設備が長期にわたって停止する。あるいは保全部品を入手しても、保全技能者のスキルが十分でないため、復旧までに想定外の時間を要することになる。
(5)この間、顧客に対しては、不良品が流出したり、納期遅れを起こしたりする事態に立ち至る」