1980年代後半以後、半導体産業で設計と製造の分業が進展した(前回の連載第6回で詳述)。設計と製造の分業は、企業機能の水平分業の一例とみることができる(図1)。図1で研究機能を大学に期待すれば、産学連携ということになる。

図1 企業機能の水平分業

 1990年代に入ると、電子機器・システムでも設計と製造の分業が進む。すなわちEMS (electornics manufacturing service) が大発展を遂げる。「iPhone」を設計する米Apple社と、その製造を受託する台湾Hon Hai Precision Industry社(鴻海精密工業、Foxconn)、この両社による設計と製造の分業が典型的だ(本連載第3回参照)。

 EMSは、その名の通り、電子製品の製造サービス業である。EMSは原則として自社ブランド製品を持たない。他社ブランド製品の製造を受託する。製品を製造する工場を持っているが、メーカーではない。EMSに製造を委託した企業のほうがメーカーだ。製品ユーザーに対してメーカーとして製造者責任があるのは、ブランドを持っている企業だからである。半導体におけるシリコン(Si)・ファウンドリと事情は同じだ。

 製造の外部委託には長い歴史がある。製造を受託する企業は、かつてはOEM (original equipment manufacturer) と呼ばれる。OEMはそのころ「下請け」とみなされていた。発注元のメーカーから支給された部品を組み立てて送り返す。これがビジネスモデルだったという [稲垣、『EMS戦略』、ダイヤモンド社、2001年、 p.49]。しかし1990年代になると、EMSへの発展が始まる。

 しかし日本企業は、OEMの発展型とも言えるEMSについても「下請け」イメージを持ち続ける。「ものづくり」が得意なはずの日本に、EMSになろうとする企業は現れなかった。半導体の場合と同じく、電子機器においても日本企業は設計と製造の垂直統合に固執する。結果的にAppleにはなれず、Hon Haiにもなれない。これが日本電子産業の現状ではないか。