電子機器の放熱技術の研究開発が、再び熱気を帯びている。普及が著しいスマートフォン、タブレット端末のような携帯機器に用いられるマイクロプロセッサーはもちろんのこと、LED照明や、自動車のヘッドランプ、シートヒーターの駆動用パワーICなどの用途が広がった。電気自動車(EV)用のパワーデバイスのような新しい用途も生まれている。電子デバイスによる発熱への対策が大きな需要を獲得できる可能性が出てきたのだ。

 これまでも電子機器の放熱は、「縁の下の力持ち」として、さまざまな形で対策が施されてきた。しかし、発熱量の大きな電子デバイスの急増が、放熱技術の研究開発に求められる水準を一気に引き上げようとしている。電子デバイスの安定した動作を保証するには熱をうまく逃がす必要がある。動作スピードが低下したり、劣化による破壊につながったりしやすくなることに加え、最悪の場合は煙が出たり、発火したりする危険が高まるからだ。

電子デバイスの放熱で高い熱伝導性と絶縁性を兼ね備えた「高熱伝導絶縁材」が注目を集めている
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば、LEDは輝度が上がると発熱量も大きくなる。発熱によってLEDの発光素子自体が影響を受けるという問題と同時に、素子の周囲にある封止パッケージなどの劣化も進む。このため、輝度の向上は放熱技術の進歩とセットでなければならない。自動車の電気化を支える炭化ケイ素(SiC)のような次世代パワー半導体も同様だ。シリコン(Si)デバイスに比べて2~3倍の電流密度で動作できるため、発熱量は格段に増大する。

 スマートフォンのように身体の近くで使う携帯機器やウエアラブル機器の増加による生体への影響を指摘する見方もある。ノートパソコンを膝に乗せて仕事をしているうちに不安になるほどパソコンが熱くなっていたり、携帯電話で長話をした際に電話本体の温度が高くなったりといった経験は少なくないだろう。熱くなったパソコンを膝に乗せ続けていると男性の生殖機能に悪影響を及ぼすという説や、熱い携帯電話を長時間、耳に当てていると不快感のみならず、低温やけどの危険性があるという説もあるほどだ。

 発熱量の大きな電子デバイスを用いる製品分野が広がるに伴い、放熱技術のさらなる改良が待ったなしの状況になっている。研究開発が活発な分野は、電子デバイスが発生した熱を効率良く逃がす放熱材料である。特に関心を集めている技術分野は、高い熱伝導性と絶縁性を兼ね備えた「高熱伝導絶縁材」である。