スクラップアンドビルドを繰り返し…

 「陰の」ではなく、「本当の」と言い換えてもいいかもしれません。それは、欧米を中心に勃興する新しい家電メーカーたちです。特にスマートフォンの周辺機器として登場しているウエアラブル機器を筆頭に、数多くのさまざまなベンチャー企業の提案が熱気を帯びていました。小さな展示ブースに参加者が引っ切りなしに訪れ、真剣に話を聞く様子は新しい産業の広がりを予感させます。

 腕時計型のスマートウオッチや、腕時計型の活動量計、メガネ型のヘッドマウント・ディスプレイ…。スマートフォンの普及でインターネットアクセスのハードルが下がり、山田氏のコラムに登場するようなEMSが機器を製造する敷居を低くした。これにより、アイデアを持つ人々が家電メーカーとして民生機器分野に参入しやすい環境整備がこれまで以上に進んでいます。

 そして、開発資金を一般消費者から調達しながら開発を進める「クラウドファンディング」のような新しい資金調達手法の広がりも、大きな要素の一つです。既に多くの報道があるように、米国の代表的なクラウドファンディング・サービス「Kickstarter」では億円単位の資金を得た開発プロジェクトも存在します。CESでは、Kickstarterで資金を調達した機器だと宣伝するベンチャー企業も目立ちました。

 こうした新しい家電メーカーの面白さは開発を手掛ける機器自体のアイデアだけではなく、ソフトウエアやWebサービス開発のプロセスに似たハードウエア開発にあります。これまでの家電メーカーの開発では、機能はもとより、開発を進めていることすら企業内の秘中の秘。だからこそ、Apple社のような世界的人気商品を手掛ける企業については、周囲から漏れてきているのであろう「まことしやかな情報」が多くの人々の耳目を集め、期待と一緒に情報が増幅されてきました。普通は知り得ない情報だからです。

 しかし、今起きていることは、未完成でも開発途上でも、むしろ開発者が積極的に開発品の情報を公開するという開発プロセスのオープン化のうねり。その情報は今や生活インフラの一部になったソーシャルメディアを介して伝搬し、開発者のところに人々の関心が集まり、関連する情報が集まり、製品の機能開発のヒントが集まっていく。そのプロセスの中で、開発品に対するユーザーの「共感」も醸成されていきます。

 同時に面白い匂いを発している新しい働き場を探す開発者の流れが、その上を漂っていくような状況も本格化していきそうです。いわば、「秘中の情報をあえて出力することが新しいリソースの獲得につながる」という新しいパラダイムが広がっていくわけです。アクセスランキングの2位、3位の「ソニー、許すまじ」をはじめ、20位以内に7件入った「携帯型DVDプレーヤの開発」の連載で紹介している時代には想像だにし得なかった状況でしょう。

 もちろん、ベンチャー企業による提案は玉石混淆。話題になることもなく消えていく提案の方が圧倒的に多いことは確かで、いわゆる「当たるのは、1000に三つ」であることはこれまでと同じでしょう。ただ、その取捨選択の作業が、大手メーカーの会議室という密室で起きるか、ユーザーの目に見えるところで起きるかという違いは大きな変化につながりそうです。

 CESで大手メーカーが提案するウエアラブル機器を見ていると、ゲリラ的に登場する大量の提案に埋もれてしまわぬよう必死になっている姿が浮かんでくるかのようです。ベンチャー企業による新しい家電開発には、とにかくスピード感があふれています。素早い開発で市場の意見を聞き、作っては壊し、作っては壊しの「スクラップアンドビルド」を繰り返しながら、複数のアントレプレナーによる開発が同時多発で進行しているからです。「作っては壊し」のすそ野の広がりが、新しい家電を生む原動力になっていくのでしょう。