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 昨今、薬事法改正の話題がにぎやかだ。

1冊の本が起点

 事の発端は、2011年9月末に出版された『いのちを守る医療機器』(日刊工業新聞社、大村昭人著)。この本において、医療機器にかかわる現行法の問題点が浮き彫りにされた。現在の薬事法こそ、「我が国の抱えるデバイスラグの元凶」との指摘である。医薬品と全く性質を異にする医療機器を、一つの薬事法という法律で縛ることには無理があるとの主張だ。

 出版後1カ月あまりで、超党派の議員による「医療機器法を作る会」が結成された。医療機器開発を促進するためには、旧態依然とした法律で規制するのではなく、医療機器独自の法律を作るべき、という主旨である。

 時を同じくして、国立がん研究センター 名誉総長の垣添忠生氏が、読売新聞の「地球を読む」欄に「医療機器・医薬品との法制分離を」という一文を掲載した。少なくとも、薬事法という旧来の法律から脱皮して、「医薬品・医療機器法」とし、医療機器の規制条項を分離すべきという論点だ。

医学界・産業界・官へと波及

 こうした動きは、医学界や医療機器業界にまたたく間に伝搬した。2012年に入ると、業界新聞や各種シンポジウムなどでも、この問題が頻繁に取り上げられるようになった。

 こうなれば、行政サイドも動きださざるを得なくなる。まずは2012年2月、内閣府のホームページに規制改革事項として「医療機器法(仮称)の創設」が掲載された。さらに、医療イノベーション会議や国家戦略会議でも議論の対象となり、医療機器を別枠にすべきという基本姿勢が固まりつつある。

 実際、2012年7月10日に示された閣議決定事項の中にも、この条項が明記されている。その重要な一項を抜粋しておこう。


医療機器事業者団体等関係者の意見も十分に聴取しつつ、薬事法に医療機器の特性を踏まえた条項を医薬品とは別に新たに設け、医療機器についての「章」を新たに設けるとともに、法律の名称変更についても検討を行い、結論を得る。

 この決定に関しては、ポイントが二つある。一つは、医薬品と医療機器を別枠にすること。もう一つは、法律の名称変更を検討するということである。

 こうした背景から、2012年8月初めのテレビ番組では総理大臣自身が医療機器開発に関して言及し、注目を集めた。日本再生のためには、医療機器分野の開発促進が必要となる。そのためには、薬事法を改正し、審査の迅速化を図ることが必須、との見解だ。

 こうなれば、医療機器にかかわる新たな法律を待望する機運はさらに高まる。近い将来、医療機器独自の法体制が確立されることへの大いなる期待が膨らむ。