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 2012年8月30日付の「薬事法施行規則の一部を改正する省令」(厚生労働省令第120号)は、医療機器業界には、グッドニュースとして受け止められている。2005年4月の薬事法改正以降、医療機器産業への新規参入にとって最大の障壁となっていた規制が緩和されたからだ。

浮き彫りにされた課題が解決

 医療機器・理科学機器関連の月刊誌として知られる『医科器械』には、「改正薬事法」というタイトルの連載記事がある。執筆者のメディカルタウン社長・井上政昭氏は、2012年9月号の解説を以下の文章でスタートさせている。

 「とてもいいニュースをお知らせいたします」――。まさしく、新規業界参入を妨げていた懸案事項が一気に取り払われた朗報を分かりやすく表現している。

 2005年4月に導入された「医療機器製造販売業」という新しい「業種」は、医療機器産業にとっては、大きな混乱を引き起こしてきた。その要因はいくつか存在するが、中でも最大の問題点となっていたのが「総括製造販売責任者」の資格要件だ。

 参入を希望する企業にとって、1番の課題が「医薬品又は医療機器の品質管理又は製造販売後安全管理に関する業務に3年以上従事した者」という条項だった。この条項が存在する限り、事実上、新たに「医療機器製造販売業」を取得できないということになる。つまり、せっかく医療機器開発を促進したい企業であっても、自社内にこの資格を有する人材がいないと、最低3年間は医療機器の承認申請が行えないという異常事態が続いていた。

予兆はあったが、なぜ今さら

 これまで医療機器を製造販売していた会社ならいざ知らず、事実上、新規参入が阻害される状況が続いていた。

 新たに参入を希望する企業の担当者が都道府県の窓口を訪ねると、当然のことながら、この資格要件のことを告げられ、「すぐには、この業種は無理ですよ」と言われる。説明する側でさえ困っていた、という話を何度も聞いた。

 全く別の事例になるが、公的資金による医療機器開発支援などの場においても混乱が生じていた。例えば、新医療機器開発の事業支援を行う際、当然のことながら、その成果としての「事業化の可否」が問われる。通常、国の予算であれ地域の予算であれ、1年間の年度単位で「完成する」ことが前提となる。ところが、いくら支援側がその成果を求めようと、採択された事業主が新規参入企業なら、医療機器の承認申請さえ不可能という事態も多々発生した。

 こうした事態に対応するため、2012年になって、特区と呼ばれる地方団体が「特例」としての対応を開始した。3年経験の代わりに特別講習で代行する、大卒でなく高卒でもOK、といった特例だ。

 こうなると、この条項がネックとなっていることが厳然たる事実として露呈された。2012年8月30日の省令が唐突に出された背景には、こうした予兆があった。

 前出の井上氏は、この解説を次のように結んでいる。「何かお気づきになりませんか? 製造業の責任技術者の資格要件とほとんど同じにしたということのようですね」――。

失敗から得るものを探そう

 新規参入の最大障壁は、7年半ほどで取り払われた。この大きな代償を誰が払うというのか。一方では、苦労をしてようやく取得した企業なら、恨み辛みの一つも言いたくなるだろう。あまりにも軽率な「施策(試策?)」だったのではないのか。

 ただし、今になって、99%過去の過失を責めてみても、将来のためにはならない。たとえ1%でも、この禍根を「何らかのプラス」に変換するアイデアを考えたほうがましだ。

 せっかく、これまでの「3年間の経験者」が会得したノウハウは、新たに任命される「総括製造責任者」にも引き継がれるような仕組みを考えるべきだ。新任の取得者たちには、それだけの同等責務が課せられるべきあり、安易に参入できるという先入観は持たせるべきでない。我が国の医療機器産業にとって、7年半の「大交通渋滞」は大きなマイナスだったかも知れないが、新人の免許取得者が安易にハイウェイに出るようなことも厳禁である。

 大失敗の経験からでも、せめて、何かしらのメリットを見出したいものだ。産業界は今回復活した権利を大いに生かしつつ、先輩経験者の苦労を引き継ぎながら開発事業に邁進してほしい。我が国のデバイス・ラグを取り戻す突破口の一つとするために…。