燃料電池はこれまで、環境意識の高い企業や家庭を中心に、じわじわと導入量を増やしてきました。それがここへ来て、災害時などの非常用電源として、さらには夏場などの電力不足の解消に、そして将来の再生可能エネルギーの余剰電力問題を解決する手段として急速に注目度が高まっています(日経エレクトロニクス 2014年1月20日号 特集「発電所がやってくる」参照)。

 2013年11月には米Bloom Energy社が、福岡市に業務用燃料電池システムを設置しました。燃料電池システムを売るのではなく、発電した電力を販売するビジネスモデルです。価格は23~28円/kWhと決して安くはありませんが、非常用電源としても使える利点を強くアピールしています。この他に岩谷産業は、再生可能エネルギーの余剰電力で水電解して水素を貯蔵し、電力の不足時に燃料電池で発電する実験を北九州市で始めました。

 燃料電池車の導入をにらんで、海外から安価な水素を大量に運んでこようという動きも活発になっています。千代田化工建設が有機ハイドライドで、川崎重工業が液化水素での運搬を計画しています。ただし、「燃料電池車だけでは水素の使用量が少なすぎて、価格が十分に下がらない」(アナリスト)ため、燃料電池車以外の供給先も確保する必要があります。千代田化工建設は川崎市と共同で、川崎市臨海部の工場や発電所などへ水素を供給することを計画しています。

 これらの動きによって、「水素社会」が到来するとされています。しかし、家庭用や業務用の燃料電池へ水素を直接供給するには、水素の供給網をきめ細かく敷設する必要があります。それには時間がかかりそうです。今回の特集の取材でも、ガス会社などはあまり乗り気ではありませんでした。自動車や発電所には水素を供給し、家庭や企業には従来通り都市ガスを供給となれば、どちらも量による低コスト化が十分に進みません。

 そこでドイツなどで注目を集めているのが、水素からメタンなどの各種の炭化水素を製造する技術です。風力発電などの余剰電力で水素を製造し、大気中のCO2と反応させてCOと水を生成、さらにCOに再び水素を混ぜてメタンを合成するのです。このメタンを、そのまま都市ガスのインフラに供給します。既存のインフラを活用できるだけでなく、都市ガスのCO2フリー化が可能になる利点もあります。

 水素インフラができるまでの経過措置として、日本でも一時的に水素由来のメタンを利用する「メタン社会」が到来するかもしれません。ひょっとすると、そのまま定着する可能性があると考えるのは、私だけでしょうか。