本コラムでは、既に数回にわたりワイヤレスによる生体情報モニタなどの動向を述べてきた。ここでは、その後の動きについて追跡しておく。

総務省主導の報告書から

宮田喜一郎

 2013年5月初め、筆者のもとに医療用テレメトリー関連の調査報告書が届いた。送り主は総務省・北陸総合通信局で、タイトルは「医療用テレメータにおける生体信号伝達の双方向化等に関する調査検討報告書」とあった。

 内容は、我が国独自の「医療用テレメータ」の電波帯に関し、その改良案ともいうべき指針提案が示されている。要は、双方向化により現在の無線テレメトリーの至便性向上を目指せ、というわけだ。ただし、何と4半世紀近く前の1989年に専用周波数帯(400MHz帯域)として割り当てられた帯域がベースとなっている。

 早速、送っていただいた担当官には礼状を書き、短い感想文も添えた。その概要を以下に記述したい。

時代錯誤をしていないか

 まずは、一口に言えば「何を今さら」というのが率直な感想だ。

 全くの偶然ではあるが、同時期に送られてきた『日経エレクトロニクス』2013年4月15日号との対照があまりにも鮮烈だったからである。この号の解説記事「飛び立つワイヤレス・ヘルスケア」は、現在のヘルスケア関連機器についての動向が詳細に記述されている。血圧計や各種ヘルスケア機器をはじめとする機器群の大部分が、2.4GHz帯を採用している。通信規格として国際的な標準となりつつあるContinuaでも、ワイヤレスではBluetoothが主体となっている。

 既に、米国の生体情報モニタの動向は述べた。詳述したPhilips社だけでなく、GE Healthcare社も2014年には、生体情報モニタの分野でこの周波数帯に近い帯域を使って新商品を出すことを発表している。

我が国の「開発ラグ」を憂慮する

 問題は、「日本の生体情報モニタ」のみが、この古い法律に規制されていることだろう。薬事法上でのモニタ関連の「認証基準」にもこの電波帯の使用が組み入れられているため、「医療用テレメータ」とうたう限り、この呪縛から逃れられない。

 当時の郵政省が苦労して割り当てた400MHz帯は、20数年にわたり我が国の医療機器全般の普及に多大な恩恵をもたらしてきたのも純然たる事実である。とはいえ、この世界の技術革新はすさまじい勢いで進行中だ。

 時代の趨勢に乗れないがゆえに、競合製品となる海外製品に遅れ劣れば、これこそ「開発ラグ」の典型的な実例ともなってしまう。

 現状を十分に把握し、その動向を見極める目をもってほしい。ごく一般的な話になるが、「規制・規則」が「新規開発」の障害になることは、ぜひとも避けるべきだ。かつては日本のテレメトリー技術が世界をリードしていた。しかし、そんな過去の遺産におぼれて、気を抜いていられる状況ではなさそうだ。