「顧客の声を商品企画に反映させます」
「お客様に愛される企業を目指します」

 メーカーの経営トップからこうした顧客志向を重視した経営方針がよく聞かれます。確かに過去には顧客のニーズとかけ離れた製品開発を行い、失敗したこともありました。例えば、空気清浄機の付いたテレビやネットを介した遠隔操作が可能なスマート家電など、利点は良くわからないし、誰に売ろうとしているのかよくわかりませんでした。

 では、商品開発で徹底的に顧客の言うことを聞いていれば良いのかと言うと、もちろんそうではありません。まず、顧客が新商品のあるべき姿を必ずしも知っているわけではありません。例えば自社が部品メーカーで顧客がセットメーカーである場合、顧客は現在手に入る半導体などの部品、今ある技術を基に新商品を考えがちです。全く新しい機能を有する半導体を使って、どのようなセットができるかを聞いたところで、なかなか答えは返ってきません。

 現在市場にない全く新しいコンセプトの商品については、顧客も含めて誰も正解を持っていないのが本当のところでしょう。顧客にヒアリングするよりはむしろ、自分自身が最終的なユーザーとなってどのような製品が新たに必要か、徹底的に考え抜くことが必要になるでしょう。

 顧客との関係に関してマーケティング以上に重要なのは、顧客は所詮、商品やサービスが提供する価値、簡単に言えば、お金を奪い合う競合でもあること。敵と言っても良いでしょう。

 バリューチェーンとも言われるように、ある商品、サービスが最終的な消費者に届くまでには、様々な業種や職種を経ています。例えば、シリコンのような原材料から集積回路(LSI)のような部品が作られ、部品が組み立てられてテレビやスマートフォンのような機器になり、流通を経て消費者に届けられます。

 商品が顧客に届くまでは多くの企業だけでなく、同じ企業の中でも研究開発、調達、製造、在庫管理、営業など様々な人の手によって、価値を付けられていきます。商品やサービスを実現するためには、こうして多くの企業や職種の人たちの協力が必要で、企業の中の異なる職種や異業種の間で密接な連携が必要になるのです。