しかし、顧客やサプライヤーなど異業種と協力して新しい製品ができたとしても、その成功の果実をどう分けるかは、バリューチェーンの中の様々なプレーヤーの間での競争になります。テレビ、パソコン、スマートフォンなどの商品に消費者が支払う価値、価格は決まっています。難易度の高い技術を開発したところで、お金を上手く回収できる仕組みが無ければ、ビジネスとしては成り立ちません。

「日本の電機メーカーは日本の自動車メーカーに特注品ばかり作らされた」
「日本の自動車メーカーは電機メーカーから部品を買い叩くことで高収益」

 収益ではっきり明暗を分けている日本の電機メーカーと自動車メーカー。両者の関係については、電機メーカーにとって嘆きや恨み言のような声が聞かれます。

 これはバリューチェーンの中での価値の奪い合いに負けてしまった典型的な例ではないでしょうか。電機メーカーは顧客である自動車メーカーに対して相対的に弱い立場かもしれませんが、「特注品を作らざるを得なかった」「買い叩かれた」原因は自らの中にあるのでしょう。下請け体質、御用聞きのような商品企画と言われてしまうようでは顧客との価値の奪い合いには勝てません。

 商品自体が他の企業に真似できないような圧倒的な差異化ができれば一番良いですが、同業種間の競争が激しければそれも難しい。ならば自らの部品を規格化してグローバルスタンダードを獲得する、特許網を敷く、顧客が使いやすいようにソフトとハードを統合した開発環境を提供し顧客を囲い込むなど、顧客が使わざるを得ない仕組みを作り上げないとどうしても買い叩かれてしまうのでしょう。

 さて、日本の自動車メーカーはこうした熾烈なバリューチェーンの競争の勝者なわけですが、これからはどうなるのでしょうか。自動車は既に数十個から100個ものCPUを搭載するなど急速に電子化が進んでいます。

 更に将来、究極的に安全な移動手段と言われる自動運転を実現するには、多種多様なセンサーによって自動車の内外の環境を検知し、センサーが取得した膨大なデータを機械学習などによって学習、自動車の制御にフィードバックすることが必要になります。

 必然的に自動車の技術だけでなく、IT、半導体技術との融合が必要になります。既にITでは、GoogleがスマートフォンのOSであるAndroidを車機器に応用するOAA(オープン・オートモーティブ・アライアンス)、Appleは車載ディスプレイを狙ったiOS in the Carといった、スマートフォンと自動車の連携や統合を意識した取り組みを行っています。