「M2M(machine to machine)」や「IoT(internet of things)」といった用語を耳にする機会が急に増えてきたように感じています。ここでは厳密な定義は避けますが、これらの用語は「人の介在を必ずしも要求せずに機器同士が通信することによって新しい価値を生み出そうとする考え方」だと言えるでしょう。ウエアラブル機器やロボットなどと同様に、エレクトロニクス産業のこれからを支える応用分野として期待されています。

 最近は、情報システムの構築や運用を請け負うITベンダー、通信サービスを提供する通信事業者、通信モジュールを提供する電子機器メーカー、機器に搭載するソフトウエアの開発にかかわる企業などがそれぞれ、M2Mの実現に貢献できると強く主張しています。そんな“M2Mブーム”を見ながら、違和感を覚えていました。

 「M2Mはずいぶん前から言われていたし、応用例も数多くある。通信技術の低廉化も進んだ。なぜ今さらM2Mなのか」と。

何のためにつなぐのか

 そうした疑念を持ちながら取材した成果を、『日経エレクトロニクス』2014年1月6日号に掲載した特集記事「M2M 再発見」にまとめました。詳しくは同記事をご覧いただきたいのですが、取材や執筆を通じて実感したのは、M2Mの広がりには「何のためにつなぐのか」という目的が不可欠だということでした。

 これまでのM2Mは、人手での作業を自動化することで人件費を削減するといった、効果が分かりやすく、M2Mのためのコストを吸収しやすい用途が中心でした。しかし、M2Mの効果は省人化だけではありません。機器からのデータ収集や機器への指示を、離れたところから短いサイクルで継続的に行えるようになるため、従来は把握していなかった詳細な稼働データを集めたり、社会の変化に応じて機器の挙動を変えたりできます。

 「機器のユーザーにM2Mのコストを負担してもらうのは難しい」。複数の取材先から、こうした意見が聞かれました。メーカーが機器の魅力を高めて売り上げを増やす代わりに自身がM2Mのコストを負担したり、収集した「ビッグデータ」の分析で新しい売り上げを生み出したり、リース会社や保険会社などの金融サービス企業と組んでユーザー企業の合計運用コストが下がる支払い形態を開発したり、といった工夫が必要になりそうです。メーカーが事業モデルを大きく変えるキッカケになるかもしれません。

 M2Mは、医療や農業、土木、流通といったあらゆる業界で応用が期待されています。要素技術を提供する企業がそれぞれM2Mへの期待を語る現状が続く状況では、機器とサービスの事業モデルを根本から変えるようなアイデアはなかなか生まれないでしょう。

 機器メーカーでも、ユーザー企業でも、ITベンダーでも、誰でも構いません。それぞれの業界を深く理解しながらM2Mの活用形態を考える主導者が登場することに期待しています。