トヨタ自動車でハイブリッド車(HEV)初代「プリウス」のハイブリッドシステム開発リーダーを務め、その後2003年の2代目プリウスに搭載した「THSII」などハイブリッドシステム全般の開発を手がけた八重樫武久氏(現コーディア代表取締役)が、ハイブリッド車および次世代環境車を展望する連載「ハイブリッド進化論」。第6回は、「東京モーターショー」でも多く展示された超小型EVについて見ていく。

 2013年12月の東京モーターショーでは、環境を全面に押し出したブースが前回までに比べて少なくなった印象を受けた。ハイブリッド車(HEV)は普通のクルマとなり、各社とも低燃費は当たり前、夢の訴求や先進技術よりも次に買えそうなクルマに入場者の関心が向かっているように感じた。一方、メーカートップによるスピーチでは将来のモビリティへのビジョン、展望があまり語られなかったのが残念だった。

 世界の電気自動車(EV)販売台数をみると、米国では生産体制を整えた米Tesla Motors社の「モデルS」の納車が進み、また日産自動車「リーフ」が販売価格の引き下げによる拡販によって1カ月2000台前後の販売をキープしている。全体では、この2強が他を圧倒しており、2013年のEV販売台数は昨年比3.2倍と販売台数を伸ばしている。しかし、米国以外では航続距離の短さ、充電ステーション設置のハードルの高さ、公的補助金減額の動きなどにより、販売台数の伸び悩みが顕在化してきている。さらに、日本では東日本大震災による原発事故によって化石燃料を使う発電へとシフトしており、EV、プラグインHEVの電力による走行で排出されるCO2はゼロエミッションどころか、最新のHEVのそれを上回ってしまいかねないことが“不都合な真実”である。

 今回の東京モーターショーで、EVで関心を集めていたのはモデルSを除けば、日産の「e-NV200」、日野自動車などが展示したEVバスなど商用車と、日産の「ニューモビリティコンセプト(NMC)」、トヨタ自動車の「i-ROAD」、ホンダ「MC-β」といった超小型EVの二つであった。

 先日、横浜で横浜市と日産が協力して始まったNMCを使った会員制カーシェア拠点を見学し、試乗する機会を得た。このNMCは、昨年初めからフランスRenault社が欧州で発売した「Twizy」をベースとしている。最初の企画は日本発のようだが、欧州で最初に商品化され、この横浜で使われているクルマもウインカーレバーが左にあるなど欧州仕様そのままを持ってきたようだ。欧州では最高出力13kWのモータを積む仕様と、4kWのモータを積み免許なしでも乗れる仕様の2種類を用意し、昨年は9000台強の販売で好調な立ち上がりとなった。ただし、2013年の販売はフリート販売が一巡したためか低迷している。一方、フランスのパリではBollore社が運営している電気自動車のカーシェアリング「Autolib」BlueCarの存在感が増している。

図◎日産自動車「ニューモビリティコンセプト(NMC)」
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 日本での実証試験に先だって、2012年11月、国土交通省からこれを公道で走らせるための超小型モビリティ認定制度の指針が発行された。どちらの実証試験に提供されるモビリティもこの指針に沿った諸元となっている。

 この指針には『まちづくりと連携した導入を図ることで、低炭素社会の実現に資するとともに都市や地域の新たな交通手段、観光、地域振興、高齢者や子育て世代の移動支援など、生活・移動の質の向上をもたらす新たなカテゴリーの乗り物として期待されています』と書かれている。この低炭素社会の実現に資するとの表現には賛同しかねるが、モータリゼーションが引き起こしてしまった公共交通機関の縮減などに起因する、高齢者などの交通弱者を差別してしまう、いわゆるトランスポーテーションデバイド対策として超小型モビリティが期待されていることは理解できる。