本連載では、テクノ・システム・リサーチ(TSR)のアナリストに、スマートフォンやカメラ、センサなどの市場動向に関するレポートを寄稿してもらう。第7回は中国モバイル市場について、同社 アシスタントディレクターの丹羽健氏が分析する。(日経BP半導体リサーチ)

 2013年12月に中国の携帯電話機メーカー、半導体メーカー(セルラー・モデム、モバイル・アプリケーション・プロセサ)を中心に計10社を訪問し、中国のスマートフォン、タブレット端末、及びプラットフォーム市場動向をアップデートした。今回の記事では、中国モバイル市場の近況をお知らせしたいと思う。中国スマートフォン市場のキーワードは“4G”、タブレット端末の大きなトレンドは“Phablet”である。

スマートフォン市場の動向

 中国では2011年から、フィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトが急速に進んでおり、2013年には携帯電話総出荷数の約78%がスマートフォンとなる見通しである。スマートフォン出荷数の伸びは鈍化しつつある一方、端末の高機能化が進んでいる。また、2013年12月から正式にサービスが開始された4G(TDD-LTE)が非常に注目されている。

 中国においてオペレーター・チャネルでのスマートフォン販売が増加しており、普及を促進している。中国最大のオペレーターである中国China Mobile社は4インチ以上のディスプレイ、デュアル・コア以上のCPUをスマートフォンの要求仕様としており、ハイエンドでは5インチ以上のディスプレイ、クアッド/オクタ・コアCPUが一般的となっている。

 4G LTEについては、サービスが始まったのは2013年末だが、2010年頃からフィールド・トライアルが実施されており、基地局がある程度設置された状態で商用サービスがスタートする。LTEスマートフォンの2014年出荷数として、China Mobile社を中心に、3オペレーター合わせて6000万~1億台が予想されている(TSRでは2014年に約8000万台と予想)。

 なお、中国の4GはChina Mobile社のTDD-LTEを指す。中国China Unicom社、中国China Telecom社もChina Mobile社のTDD-LTEネットワークを利用して4Gサービスを提供する。一部メディアでChina Unicom社、China Telecom社のFDD-LTEサービスの見通しについて報道されているが、今回の調査の中では中国政府のFDD-LTE認可時期、あるいはFDD-LTE端末の要求に関する具体的な情報は聞かれず、FDD-LTEサービスの開始は早くとも2014年後半以降になるとみられる。

 2014年前半まではLTE端末はハイエンドに位置づけられるが、2014年後半には普及価格帯のLTEスマートフォンが製品化される。2014年後半には1,000~1,500人民元のLTEスマートフォンがChina Mobile社から要求されている。さらに、2015年には中国内周波数のみに対応した低価格LTEスマートフォン(500人民元程度)が計画されている。

図1●中国スマートフォン市場予測、LTE予測、2012~2015年(TSRの資料)
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 中国のLTEスマートフォン向けモデム・チップとしては、米Qualcomm社、米Marvell Technology社、中国HiSilicon Technologies社の3社が先行しており、初期の端末に搭載される。しかし、2014年前半には台湾MediaTek社、中国Spreadtrum Communications社、Leadcore社、米Broadcom社等がLTEチップの量産出荷を開始する。サプライヤの増加に伴い、2014年後半には低価格のLTEスマートフォンが市場投入される見込みだ。

 なお、中国でスマートフォン市場の裾野が広がるにつれ、価格競争力やオペレーターとの関係が強いローカル・ブランドが勢力の伸ばしており、中国Huawei社、中国ZTE社、中国Lenovo社、「Coolpad」ブランドを持つYulong Computer Communication Technology社、Xiaomi社、「K-Touch」ブランドを持つ中国Beijing Tianyu Communication Equipment社等といったローカル・ブランドが一定のシェアを獲得するようになっている。ただし、今回会話をした中国人の共通認識としては、人気があるブランドはあくまで韓国Samsung Electronics社、米Apple社であり、中国ローカル・ブランドは低価格だから売れているといる見方が一般的である。

 次に中国のスマートフォンOEM、ODMメーカー向けチップセットのトレンドをみる。ここでは、中国市場向け端末ではなく、中国籍のメーカーが製造するスマートフォン向けチップを対象とする。2012年前半まではQualcomm社が非常に高いシェアを持っていたが、MediaTek社、Spreadtrum社等の参入後、急速に勢力図が変わっている。

 2013年にはMediaTek社が44%程度のシェアを獲得、特に2013年後半から勢いを増している。Spreadtrum社はTD-SCDMA、及び新興国向けEDGEスマートフォン向けを主に出荷している。2013年2Qに大きく出荷数を伸ばし、2013年通年のシェアは26%となる見込みである。Qualcomm社はハイエンド、先進国向け輸出モデルを中心に採用されているが、シェアは年々減少している。Qualcomm社以下には、Leadcore社、Marvell社、Broadcom社、HiSilicon社等が続くが、上位3社とは大きな差がある。

 なお、Spreadtrum社はTsinghua UniGroupによる買収に伴い、2G RF、2Gモデム・チップ、WiFi/Bluetooth技術が強いRDA Microと統合する見込みである。技術的には補完関係にある。ビジネス面での統合には時間がかかるとみられており、短期的に市場への影響はほとんどないと考えられる。

図2●中国スマートフォン・チップセットの出荷数トレンド、2013年1Q~4Q(TSRの資料)
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 中国市場において、チップ・サプライヤにとって重要なのは価格競争力とTime to Market(製品化までの時間の短さ)を実現するためのリファレンス・デザイン、OEM、ODMメーカーへのローカル・サポート、チップセット周辺コンポーネントのサプライ・チェーンである。Qualcomm社はMediaTek社に比べてローカル・サポート、サプライ・チェーンが弱いとみられており、短期間で状況を変えるのは難しい。中国でのLTE市場の立ち上がりはLTEチップの供給で先行するQualcomm社にとってポジティブとなるが、先述の通り、競合するMediaTek社、Spreadtrum社も2014年前半にはLTEチップを量産するため、Qualcomm社のリードは6カ月程度にとどまる。