明けましておめでとうございます。「日経Automotive Technology」の編集長に2014年1月1日に就任しました林達彦です。これまで副編集長として務めて参りましたが、新たな気持ちで魅力的な誌面づくりに取り組む所存です。

 弊誌は5月に創刊10周年を迎えますが、この10年は自動車技術が大きく変わった時期と言えるのではないでしょうか?10年前の弊誌をひもといてみると、電気自動車はまだ実用化前で慶応大学の「Eliica」が370km/hという最高速度を出して話題になっていました。その当時、日産自動車から「リーフ」が発売されることを誰が予想したでしょうか?また、2005年の特集では「ハイブリッド普及の条件」というタイトルを付けたように、ハイブリッド車は黎明期から普及期への移行段階であったことが分かります。2004年の特集「ぶつからないクルマ」では、衝突被害軽減ブレーキを中心とした衝突防止技術を取り上げていますが、この技術が自動ブレーキのみならず自動運転に発展するというさらなる進化は当時想像できなかったでしょう。

 さて、今後の10年間には何が起こるのか?この答えは誰も正確には予測できませんが、現在ある技術のいくつかが花開いていくでしょう。パワートレーン技術では電池の高容量化による電気自動車の航続距離向上が見込まれます。現在、EVなどに使われているLiイオン2次電池のエネルギ密度は、60~140Wh/kg程度とされます。しかし、正極や負極の材料の改良によって、200~250Wh/kgのエネルギ密度が実現する可能性があります。例えば、負極ではカーボンの代わりにシリコン系を用いる技術が有望視されており、こうした技術が実現すれば、航続距離が現状の2倍程度に高められ、1充電当たり300km以上走れる電気自動車が登場するでしょう。

 燃料電池車については、2015年にトヨタ自動車とホンダが市販車を投入、さらに2017年に日産自動車も市販を予定することから、黎明期を迎えるかもしれません。水素インフラの整備と車両コストの高さが課題ですが、車両コストについては数世代の量産化である程度下がっていくと見られます。一方、水素供給インフラは電気自動車の急速充電ステーション以上にハードルが高いと言えます。クルマだけのために水素インフラを造るというのでは、投資対効果が低すぎるため、社会全体での利用価値を高める必要があります。

 なお、自動運転はすでに各メーカーがロードマップを明らかにしており、高速道路や低速での追従といった限定的な用途から実用化へ向かうことは間違いありません。高速道路に限った自動運転も早ければ2016年あたりから実際の車両が出てくるはずです。

 さて、トヨタが先鞭を付けたハイブリッド技術は今後どうなるのか?トヨタ内部の開発陣のモチベーションは、ホンダが2013年に投入した「アコード」と「フィット」の新方式が起爆剤となって大きく高まっているといいます。長く引っ張った「THSII」の次世代版が数年内に登場すると見られます。

 さらに、見逃せないのが情報系の進化です。カーナビだけでなく、クルマにはスマホと連動する多くのアプリが搭載されるようになりました。こうしたデバイスやアプリの進化スピードは非常に速いため、クルマのインフラとは分けて考えて、情報系が独自に進化できるような仕組みが整いつつあります。自分のスマホで、クルマの状態を確かめたり、セッティングを変えるなど、クルマの一部の機能はガジェット化が加速するでしょう。これが自動運転と連動すると、自動駐車や自動車両呼び出しといった機能が搭載されそうです。

 こうして見ると今後の10年間もクルマの常識が大きく変わる「激動」の時代になりそうです。弊誌では、技術進化はもちろん、完成車メーカーが考えるべき未来のクルマの姿をユーザー目線での分析とともに、掲載していきます。ぜひ今年も弊誌とWebサイト「Tech-On!」をご愛顧下さい。

 最後になりますが、今年1年の皆様のご健勝をお祈り申し上げて新年のご挨拶とさせていただきます。