独占を破るためには勝負を別の土俵に移すことが有効

 ネットワーク外部性による独占は、同じタイプの優れた製品の投入では、なかなか破れない。シェアが上だという理由で、ますますシェアが上がってしまうからだ。

 同じタイプの製品では勝負せず、勝負を別の土俵に移す。ネットワーク外部性が働いている場では、この戦略が有効である。モジュール化の活用でもある。

 1990年代の半ばに、Webブラウザ(閲覧ソフト)が登場する。WebブラウザはWebサイトを閲覧するためのソフトウエアである。けれども、自分のパソコンに保存されているファイルをWebサイトと同様に扱い、Webサイトを訪れるのと同じ感覚で自分のファイルにもアクセスできる。

 一般のパソコン・ユーザーにとってOSは、ファイルにアクセスするための画面として機能している。同じことがWebブラウザでできるなら、OS画面は開かず、ブラウザ画面を開いて、ファイルにアクセスしたり、Webサイトを見に行ったりすればよい。こうすると、ユーザーにとってのパソコン・インタフェースは、OSからWebブラウザに移る。

 WebブラウザがいろいろなOSに移植されていれば、OSの違うパソコンを使っているユーザーであっても、同じブラウザ画面を見ながら、同じ操作でパソコンを扱える。一般ユーザーにとってはOSが何かはどうでもよくなり、どのWebブラウザが使いやすいか、に関心が移る。

 これは、Webブラウザという新しいモジュールをシステムに追加し、これをユーザー・インタフェースとして、OSをユーザーからは見えなくしてしまうという戦略である。勝負の土俵をOSからWebブラウザに移すことによって、OS独占の意味を小さくする。

 Webブラウザ市場で一時期、米Netscape Communications社の「Netscape Navigator」は90%近いシェアを獲得した。危険を察知したMicrosoft社は、必死にNetscape社に対抗する。独占禁止法による訴訟を世界各地で経験しながら、結局はMicrosoft社が勝利する。しかし、この過程は逆に、勝負の土俵を移すことが、ネットワーク外部性による独占の克服に有効であることを示している。

 「iPhone」などによるApple社の再浮上も、全く別の新しい競争の場を創造した結果とみることができる。実際、スマートフォン(スマホ)では、マイクロプロセサもOSもパソコンとは別物である。この市場で活躍している企業も、パソコン市場とは様変わりとなった。さしものウインテル連合もスマホ市場では影が薄い。

 パソコンからスマホへの舞台の転換、そこで活躍する役者の交代、これらのダイナミックな動きのなかに、日本企業はほとんど登場しない。

非営利活動が独占を破ることがある

 Windowsの独占を多少なりとも破ったのは「Linux(リナックス)」 だろう。それを開発したのは非営利のコミュニティである。「面白い」という理由で一学生が開発し公開したソフトウエアを、何千人という技術者がよってたかって改良・発展させてしまった。ここまでの段階では金銭のやりとりはなく、みなボランティアだ。報酬は一種の尊敬である。仲間に認められること、これがうれしくて、このネットワークに参加する。

 だが結果として優れたソフトウエアが出来たとなれば、それは商品になり得る。Linuxの周辺に新しいビジネスが生まれた。企業向け基本ソフトウエアとして、Linuxはかなり大きな存在となる。非営利のボランティア活動が市場経済側の企業活動を刺激し、新しい産業が創造された例である。

 TRON(The Realtime Operating system Nucleus)の場合もオープンな開発体制であり、利用も無償だ。主に組み込み型OSとして使われている。ここでも非営利活動と営利事業の交流がある。

 Linuxの例に見るように、独占の発生しやすい水平分業に非営利組織(大学も含む)が加わることの意味は大きい。非営利なら、市場での成功とは違う価値を求めて研究開発に励むことができる。その成果を営利企業が活用できれば、水平分業の活力が高められる。

 ただし非営利活動と営利活動の関係は微妙らしい。営利活動は、非営利活動の成果に依存している。非営利活動の成果は無償で公開されているからである。しかし非営利活動にある種の「敬意」を払わないと、営利事業がスムーズでなくなるという。一方、営利事業が活発化することは、非営利活動にとっても大きな支援となる。