ドイツRohde & Schwarz社は2010年にオシロスコープ事業に参入した。後発だった同社は、参入からの3年をどのように評価しているのか。オシロスコープ製品の強みと、事業の概況を聞いた。

Guido Schulze 氏
ドイツRohde & Schwarz社 Test and Measurement Division, Head of Product Management Osciloscopes

――最初に、オシロスコープ事業に参入してからの3年間を総括してください。

Schulze氏 参入から3年の間で、非常に競争力が高い製品群を用意できたと自負している。ハイエンド品の「RTO」シリーズは帯域幅が最大600MHz~最大4GHzの製品、ミッドレンジの「RTM」シリーズには帯域幅が最大350MHzと同500MHzの製品をそれぞれ用意した。さらに帯域幅が最大70MHz~最大500MHzの領域の製品は、子会社のドイツHAMEG Instruments社が供給している。

 オプションのアプリケーション・ソフトウエアや、計測用プローブの充実も図った。顧客からは、計測の正確さやスピード、そして使いやすさが高く評価されている。

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4GHzでもENOBが7を超える高精度なA-D変換器を搭載する。

 Rohde & Schwarz社の強みを生かした魅力的な製品を供給するという目標は達成できたと考えている。我々はオシロスコープ市場全体をカバーする方針であり、今後はより高周波に対応する製品を提供していく予定だ。

――オシロスコープ市場では後発でした。スペクトラム・アナライザやネットワーク・アナライザを手掛けてきたRohde & Schwarz社だからこそ実現できた特徴というのはあるのでしょうか。

Schulze氏 やはり測定器を75年間以上手掛けてきた経験というのは大きかったと感じている。

RTOシリーズのメイン基板。デジタル・トリガへの対応や信号処理の高速化を実現するために独自のASICを開発した。
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 例えば、RTOシリーズに搭載したシングルコアのA-D変換器。0.25μmのSiGeバイポーラCMOS技術で製造した独自開発品で、変換周波数は180GHzだ。このA-D変換器は有効ビット数(ENOB:effective number of bits)が7以上の状態を4GHzまで維持可能であり、これが高速な信号も正確に計測できる強みの源泉になっている。低雑音増幅器(LNA:low noise amplifier)も、既存の測定器で培った技術を生かして開発したものだ。

 他の測定器の経験は、オシロスコープ用ASIC(特定用途向けIC)の開発にも生きた。RTOシリーズに搭載したASICは最大で毎秒100万波形の更新速度を実現したもので、波形の取得の他、トリガ、高速フーリエ変換(FFT)などのポスト処理、可視化の処理を受け持つ。

 このASICは約1500万ゲートの論理回路と42Mビットの内部メモリを備える。データ・スループットは約20Gバイト/秒に上る。RTOシリーズのオシロスコープを4チャネルのスペクトラム・アナライザとしても利用可能なのは、この独自ASICが高速な信号処理に対応するからだ。

 4チャネルの入力に対応しつつ測定の確度を落とさないように設計するのも、測定器を手掛けてきた経験に基づくといえるだろう。4チャネルのアナログ回路部を覆う金属シールドはノウハウに基づく独自設計品で、これにより、チャネル間での60dB以上の分離を実現している。