古い話になるが、筆者が記者として仕事を始めたのは約30年前。半導体市場はDRAMの時代で、主役は日本企業だった。その後、DRAMはシリコン・サイクルの影響を受け易く、総合電機メーカーの事業としては適切ではないとの理由で、日本はDRAMの主役の座から降りた。それに並行して、世界半導体市場は、マイクロプロセサの時代、すなわち、米Intel社が首位の時代となった。
ルネサスに外部から新社長
売上高で言えば、未だにIntelはトップだ(Tech-On!関連記事)。しかし、最近のスマートフォン・ブームに乗れなかったIntelの業績は停滞するようになった。同ブームに乗れなかったのはIntelだけではない。ルネサス エレクトロニクスは、100%子会社であるルネサス モバイル(RMC)が手掛けるモバイル(携帯端末向けSoC)事業の売却を2013年3月に正式に決めた(2013年アクセスランキング6位の記事)。
そして、同年9月には、ルネサス モバイルの子会社とLTEモデム技術資産を約160億円でBroadcomに売却することが決まった(Tech-On!関連記事)。そのルネサスは2013年6月末に、外部から新社長として前オムロン取締役会長の作田久男氏を招き、これまでとは異なる体制で会社を立て直すことになった(Tech-On!関連記事)。
富士通セミコンやパナソニックにも大変化
大きな変化は、他の国内半導体メーカーにも訪れた。富士通は、子会社の富士通セミコンダクターらが手がけるマイコンとアナログ半導体の設計・開発事業を米Spansion社に売却することを2013年4月30に発表した(Tech-On!関連記事)。パナソニックと立ち上げる予定の新会社へSoC事業が移行すると(2013年アクセスランキング19位の記事)、富士通セミコンダクターが開発に携わるのは、富士通の社内用のICだけになるようで、原点に立ち返るとも言える。
一方パナソニックは、新会社へ移行するSoC事業ではない、すなわちパナソニックに残る半導体事業について、体制の大きな変更を2013年12月20日に正式発表した(Tech-On!関連記事)。パナソニックの北陸工場(魚津・砺波・新井3地区)の8インチと12インチの拡散ラインを、イスラエルTower Semiconductor社(ブランド名:Tower-Jazz)と合弁する新会社へ移管する。新会社の資本金は7.5億円で、Tower Semiconductor社が51%を出資し、残りの49%をパナソニックが出資することになる。
製造装置業界にも激震
動きは半導体メーカーにとどまらない。半導体製造装置業界にも激震が走った。半導体製造装置メーカー首位の米Applied Materials社(AMAT)と、同3位の東京エレクトロンが2013年9月24日に、両社を経営統合することで合意したと発表した(2013年アクセスランキング7位の記事)。その背景には、半導体製造技術の微細化の限界がある。
これまで製造装置業界は微細化の度に新製品を買ってもらっていた。が、微細化限界がくれば、そのビジネ・モデルの変革が必須となる。それに備えたのが、この大型合併といえる。
「未来を有難う」
こうして書いていくと、不幸な出来事が連続して起こっているように見えるが、必ずしもそれだけではない。例えば、元富士通セミコンダクターのマイコン技術者のモチベーションは、Spansion社に移籍した後で上がったという(Tech-On!関連記事)。富士通セミコンダクター時代は、自社で製造できる55nm世代までの製品ロードマップしかなかった。それに対して、Spansion社に移籍後は40nm世代、28nm世代の製品ロードマップを描けるようになったことが効いた。
また、富士通セミコンダクターから岩手工場を買収したデンソーからは、こんなエピソードを聞いた。デンソーの加藤之啓氏(常務役員 デバイス事業部 担当)が、富士通セミコンダクターからデンソーに移った従業員に言われたという言葉である(Tech-On!関連記事)。「自分たちは岩手工場の最後を見届けることになると思っていた。デンソーに買ってもらったことで、元気になった。未来を有難う」(同従業員)。2014年は、明るい未来の見える記事を多く書ければと思っている。