「居眠り」を原因とする悲惨な交通事故が後を絶たない。2012年4月に行楽客を乗せた観光バスが関越自動車道で防音壁に衝突し、乗客7人が死亡するという痛ましい事故が発生したことは記憶に新しい。

 現場にブレーキ痕やスリップ痕は見つかっておらず、警察は居眠り運転が要因と発表した。90km/h以上のスピードで側壁に衝突したとみられている。2011年2月には、愛知県の東名自動車道で居眠り運転のトラックに追突され母娘ら3人が死亡。その4カ月後に名神自動車道で5台が炎上し、2人が死亡した玉突き事故でも、事故の原因となった自動車の運転手は「一瞬、居眠りをした」と供述している。

 居眠り運転による交通事故では、全く減速せずに衝突したり、道路を外れて歩行者を巻き込んだりと、悲惨な事故につながるケースが多い。長距離トラックのように、24時間操業の中で起こる自動車事故では、かなりの割合で居眠りが原因との見方が強い。

 警察庁の統計によると、交通事故による死亡者の数は毎年減少しており、2013年には4373人と、ピークだった1970年の1万6765人の1/4まで減った。ただし、詳細を見ると、速度違反のような危険運転による事故は大幅に減少しているが、安全不確認、漫然運転、居眠り運転などのヒューマン・エラーによる事故の数はそれほど減っていない。行楽帰りや帰省途中、単調な運転でつい眠くなってしまうという経験をお持ちのドライバーも多いのではないか。

運転中の居眠りを防止する技術が、いよいよ現実のものになりつつある。写真は、富士通研究所が開発した耳クリップ型の「眠気検知センサー」。2013年の「CEATEC JAPAN」に出展した。眠気を検知した場合はスマートフォンに警告を発する。(写真:日経エレクトロニクス)
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 今後、交通事故をさらに減らすためには、疲れや居眠りなど、運転者の覚醒状態を事前に把握することが有効であることは間違いない。そのため開発が活発になっている技術が、眠気検知である。これが実現できれば、事故防止に大きく寄与することは間違いないし、社会に与えるインパクトは大きい。運転者の眠気を早めに検知し、事前に危険を察知することで事故を防ぐ技術は古くから研究されてきたが、技術の進歩にともない、いよいよ現実のものとなりつつある

 眠気検知を実現する第一歩は、運転者の眠気が強まっていることを示す特徴的な動きや生体信号を検知することである。そのためには眠気の兆候を定義することが不可欠だ。現在、眠気の兆候として一般に使用される指標は、大きく三つある。第1に開き方や瞳孔の大きさを含めた目の動きや状態、第2に脳波の変化、第3に心拍の変化である。