「実際、電気自動車(EV)ってどうなの?」

 こう感じている読者は多いのではないだろうか。

 ガソリン車に比べるとランニングコストが低く、環境破壊につながる有害物質(二酸化炭素や窒素酸化物)を排出しないEVは、自動車の将来像として頻繁に話題となる。災害時には電気の供給源としての役割を果たすという一面もあり、東日本大震災後はさらに注目度が上がった。

電気自動車の開発が活発になっている。写真は、日産自動車の電気自動車「日産リーフ」の特別仕様車「エアロスタイル」。2014年1月に発売する。日産リーフは、2013年10月に日本での累計販売台数が3万台に達した。
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 しかし、「購入したいと思うか?」と問われると、なかなか首を縦に振りにくい。実際、今のところ街で見かけることは多くないというのが現状だ。

 消費者が購入に二の足を踏む最大の理由は、1回の充電で走行できる航続距離の短さだろう。例えば、2013年8月時点で日産自動車のWebサイトに記載されているEV「リーフ」の公式な航続距離(JC08 モード)は228km。かつてに比べれば伸びているが、理想的な状況で東京-宇都宮間をやっと往復できる水準である。

 加えて、充電インフラの問題もある。電気が切れたら、どうすればいいか。使っているうちに2次電池も劣化するだろう。ニワトリと卵の議論ではあるが、こうした不安の解消なくして、EVの普及はおぼつかない。

 先日、たまたまEVタクシーに乗る機会があった。これ幸いと、運転手さんに「どうですか、電気自動車?」と聞いてみた。「そうだね。寒い日は特にバッテリーの消耗が激しいね。暖房に電気を結構使うみたいよ」。

 少し意外な回答だった。EVの燃費向上のカギは暖房だという。19世紀後半に発明されて以降、100年以上にわたり、エンジンという内燃機関で燃料を燃焼させ、そこで得られたエネルギーを動力に変えて自動車は動いてきた。

 エンジンが熱くなりすぎないように冷却装置で冷やしながら走るくらいなので、熱はむしろ邪魔者なんだと漠然と思っていた。EV時代には「熱」が貴重なものとして重宝される。そのことを再認識した次第だ。

 EV時代の到来に向けて、大きくクローズアップされている技術がある。蓄熱技術だ。駆動源の2次電池も発熱するが、エンジンの発熱に比べれば大きくない。現在車内の暖房に用いているエンジンの余熱の存在が失われるということは、冬場にEVの航続距離を向上するために別の新たな熱源が求められていることを意味する。それを実現する要素技術の一つが蓄熱技術である。