スマホの輸入で通信機器の貿易収支は大幅な赤字

 2005年ごろから、米Apple社の「iPhone」に代表されるスマートフォンの輸入が急増する。その結果としての貿易赤字は、日本の全体としての貿易収支に影響を与えるまでの大きさになっている[佐伯遼、「iPhoneへの『愛』で膨らむ貿易赤字 9月過去最悪」、『日本経済新聞電子版』、2013年10月21日付]。この状況を図5がよく示している。無線通信機器の貿易赤字は1兆5000億円を超える。同時に携帯電話機と無線通信機器の国内生産が急落する(図3、図5)。

図5 無線通信機器の生産動向と貿易動向
資料:経済産業省機械統計、財務省貿易統計
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 スマートフォン事業から撤退する日本企業も相次いでいる。それは、伸び盛りの市場からの撤退である。

スマホを巡る生産と貿易のグローバルな関係

 スマートフォンの生産と輸出入の構造を、iPhoneを例にして、もう少し詳しくみてみよう。iPhoneのユーザーに対して、製造者責任を負うのはApple社である。その意味で、iPhoneのメーカーは米国のApple社だ。しかしApple社は工場を持っていない。iPhoneのハードウエア生産を請け負っているのは主に台湾のHon Hai Precision Industry社(鴻海精密工業、Foxconn)だ。しかしHon Hai社は中国本土にある工場でiPhoneを製造している。日本のユーザーが購入するiPhoneは「Made in China」である。貿易統計上は中国からの輸入となる。日本人が好んでiPhoneを買うため、中国からの輸入が急増する──こういう結果になっている。

 日本のシャープはiPhone向けに液晶パネルを供給している。部品である液晶パネルはHon Hai社の中国工場に向けて出荷される。これは貿易統計上、日本から中国への輸出となる。日本人がiPhoneを買うと、日本から中国への輸出も増える。

 メーカーである米国のApple社、製造を受注している台湾のHon Hai社、実際にハードウエアを生産している中国本土の工場、そこへ部品を供給している日本のシャープ、iPhoneを購入する日本のユーザー、これらが国際的に入り組んだ関係にある。この関係においては、海外生産とか空洞化などの使い古された表現は、ほとんど無意味だ。

 工場を持たないApple社は、海外生産とも空洞化とも無縁だろう。一方Hon Hai社のようなEMS(electronics manufacturing services)企業は、顧客サービスのために世界各地に工場を展開する。これを空洞化と呼べるのだろうか。

 「Appleは米国内で製造していないから、米国から雇用を奪っている」という批判がある。しかしAppleと関連事業が米国内に生み出した雇用は約60万人に達するという[大前研一、「アップルのグローバルサプライチェーンから読み解く『真実』」、BPnet、2013年11月20日]。

 以上のような国際関係、すなわち設計企業と製造企業のグローバルな分業は、電子産業では、いまやごく普通である。このグローバル分業に背を向け続けたことが、日本電子産業の凋落の一因、私はそう考えている。この問題については、本連載の後の回で詳しく議論したい。