無線LAN規格のIEEE802.11acが普及期を迎えつつある今、業界では11acに続いてIEEE802.11adをパソコンなどの機器に搭載する機運が高まっています。11adは60GHz帯を使った無線LAN規格で、最大6.75Gビット/秒もの超高速通信を実現します。無線LANの業界団体である「Wi-Fi Alliance」が、2014年末にも11adをベースにした無線通信仕様の「WiGig」の相互接続認証プログラムを開始する予定です。この認証プログラムの開始を皮切りに、対応機器が続々と市場に投入されることが期待されています。

 このWiGigの用途として、最初に採用が見込まれているのがノート・パソコンの入出力インタフェースを拡張する無線ドッキング・ステーションです。WiGigは11adの物理層/MAC層の上に、DisplayPortやHDMI、PCI Express、USB、SDメモリーカードの信号を扱うための拡張仕様が定められています。こうした拡張仕様を利用して、パソコンとドッキング・ステーションの接続を無線化します。つまり、パソコン上ではドッキング・ステーションの入出力インタフェース(DisplayPortやHDMI、PCI Express、USB、SDメモリーカード)が有線でつながっているように“見える”のです。

 日本のユーザーにはあまりなじみのないドッキング・ステーションですが、海外ではビジネス用を中心にそれなりの需要があります。特に近年はノート・パソコンの超薄型化が進んでパソコン本体にUSBポートなどのインタフェースを持たせるのが難しくなっているため、ドッキング・ステーションを一緒に購入するユーザーが増えているそうです。

 とはいえパソコン市場全体で見ると、現時点でドッキング・ステーションはそれほどメジャーなオプション機器とはいえません。多くのパソコンにWiGigが搭載されるようになるには、何らかのブレークスルーが必要だと考えます。

 私は、このブレークスルーをもたらすのは米Apple社ではないかとみています。つまり同社が、WiGigベースの技術をパソコンやディスプレイ、周辺機器などに搭載するという期待です。なぜならApple社は、パソコンの進化の方向性として「物理的なケーブルを減らす」ことを目指している節があるからです。例えばThunderboltによって、PCI ExpressとDisplayPort、電源を1本のケーブルにまとめました。

 この点において、WiGigを使うと電源以外のパソコンのケーブルをほぼ無線化できます。ですから、同社が「Thunderbolt Air」といった名称でWiGigベースの技術を採用する可能性は十分にあると思います。例えば、無線ドッキング・ステーションの機能をディスプレイに内蔵すれば、パソコン本体とディスプレイをつなぐケーブルが不要になります。つまりノート・パソコンを近くに置くだけで、ディスプレイをセカンド・ディスプレイとして使用できたりするわけです。この他にも、ディスプレイにHDDやSSDを内蔵してパソコンの拡張ストレージとして使う、といった活用方法も考えられます。

 Apple社がこうした活用方法を提案すれば、業界はかなりのインパクトを受けると思います。おそらく他のパソコン・メーカーも追随してくるでしょう。また、スマートフォンやタブレット端末へのWiGig搭載に向けた動きが加速する可能性もあります。

 日経エレクトロニクスの12月9日号の特集「飛び立つか、WiGig」では、このように盛り上がりをみせているWiGigの動向や現状の課題、技術仕様について解説しました。ご興味を抱かれた方は、ぜひご一読いただければ幸いです。