今回紹介する書籍
書名:中国社会各階層分析
著者:梁暁声
出版社:文化芸術出版社
出版時期:2011年1月

 今回は『中国社会各階層分析』という作品の書評の最終回。『ある紅衛兵の告白』などで有名な作家の梁暁声が中国社会を9階層に分け、それぞれについて解説した評論である。本書の特徴は、1997年に第1版が出版され、2011年に改訂版が出版された後、増刷が繰り返されていることだ。扉に「この本からこの30年の中国と300年の中国社会、そして3000年の中国人が読み取れる」と書かれているように、伝統的な中国人の考え方、中国社会のあり方と同時に現代中国の姿をも描き出している。

 前述のように本書は初版の出版から14年後に改訂版が出されている。そのときに加筆された1章が「中国灰社会」だ。「灰」とは「灰色」を表すのだが、ここには二つの意味がかけられている。

 本書によると10数年前の西洋では成功した男性は上質なグレーのスーツを着ることが流行していたという。上質なグレーのスーツが成功者のユニフォームのようになっていたというのだ。それで、上流社会を表す色が「グレー」なのだという。故に「灰社会」と言う言葉は上流社会を指す。

 だが、その一方で、日本語でも「彼はグレーだ」と使うように「黒(=悪)か白かはっきりしない」「完全に正しいわけではない」という意味もある。つまり「灰社会」も「半分黒い社会」をさす。

 上流でありながら半分黒い「灰社会」。しかし、先週も述べたように、中国の黒社会では中枢に役人(しかも幹部)がいる。すなわち、ある意味での上流社会である。

 では、灰社会はどこが黒社会と違うのか。それは、黒社会は暴力と無縁ではない(土地の収用などで抵抗する住民に対し暴力を振るっている男たちの映像を見たことのある方も多いだろう)のに対し、灰社会はあくまでも「成功者」であり、暴力とは無縁であることだ。暴力などの実力行使はせずに社会の上層部にいて甘い汁を吸ったり、不正なことをしたりしている社会階層が灰社会なのである。

 初版では言及されていなかったということから、灰社会は1997年から2011年までの間に出てきた新しい社会階層だということが分かる。経済も発展し、社会も成熟しつつある中で、旧来のように分かりやすい「悪」ではなく、新しい「悪」の形が出てきたということだろう。

 4週にわたって『中国社会各階層分析』をご紹介してきた。中国の社会階層の固定化が問題になっているが、1997年に書かれた部分ではまだ社会階層が固定化していない様子が見て取れた。この14年間で経済は発展したが格差は広がり固定化が始まっている。さらなる発展を続けるためには社会階層のあり方、そしてその詳細をきっちりと分析していくことが必要であろうし、我々隣国の人間としてもその変化や内容に気をつけることが必要であろう。