第1回のアワードで最優秀賞に輝いた「ワイヤレスSSDに向けた高速通信技術」の研究に携わる慶応義塾大学の小菅氏に、同技術の内容を解説してもらう。
我々は、電極間の近接場電磁界を用いる高速な非接触通信技術を開発した。SSDやディスプレイなどとメイン基板を接続するコネクタを非接触にしたり、マイクロプロセサとDRAMモジュールを無線で接続したりすることに利用できる。
近距離の非接触通信技術として、コイルの磁界結合を利用するものが多く提案されている。その主な応用分野は、積層されたSiチップ間の通信である。高速な通信をTSV(through silicon via)に比べて安価に実現できると期待されている。磁界結合を利用するチップ間非接触通信では、数十μmの通信距離において1チャネル当たりのデータ伝送速度30Gビット/秒を実現した例もある1)。
しかしながら磁界結合を利用する非接触通信技術は、通信距離がmmオーダーまで離れると帯域が大幅に狭くなるという課題がある。コイルが持つ寄生容量成分によって自己共振が発生するためである。例えば通信距離1mmでは、これまで報告されたデータ伝送速度の最大値は1チャネル当たり1.2Gビット/秒である(多値化なしの場合)2)。磁界結合で10Gビット/秒級の通信を実現するには、通信距離を0.1mm以下にすることが望ましい。