三洋電機の幻の“iPod”に欠けていたもの

 次にみなさんがよくご存知の米Apple社の「iPod」の事例を取り上げます。あまり広く知られていないのですが、実はインターネットから楽曲をダウンロードして取り込み、CDプレーヤのような機械部分を持たないポータブル・オーディオ・プレーヤという製品概念は三洋電機が1990年代に温めていました。その三洋電機が1998年にApple社のスティーブ・ジョブズ氏に提案し協議しているのです。

 これについては、日本経済新聞の記事「成長を考える 第4部何が阻むのか 心地よい国内」で「幻のiPod」として取り上げられています。また書籍「三洋電機 井植敏の告白」(日経BP社刊)にも詳しく述べられています。

 結局三洋電機とApple社の協議はもの別れに終わります。その後Apple社は2001年に発売した「iPod」で成功します。一方の三洋電機も独自で製品を発売しますが、メジャーな楽曲を手に入れて配信することができずにビジネスは成功しませんでした。

 この事例では、問題開発フェーズは三洋電機が既に行っていましたし、携帯音楽プレーヤを作る技術は三洋電機が既に持っていました。それなのに三洋電機はこの分野で成功せず、Apple社が大成功を収めたのです。