結晶Si型太陽電池セルの表面を見ると、縦横に走る銀色の配線があります。今、この配線材料を巡って、熱い技術開発競争が繰り広げられています。

 現在、セル表面の配線は銀(Ag)ペーストで形成しています。最近のAg価格の高騰により、太陽電池セルの製造コストに占めるAgペーストの割合が増加してきました。「セル工程の材料コストの6割を占める」(ある太陽電池メーカー)というほどです。しかも今後、太陽電池セルの生産量が増加すれば、太陽電池業界のAg使用量が増えていきます。その量は、Ag全体の生産量に匹敵するという試算もあります。

 このため、2013年10月に開催された太陽電池の国際学会「EU PVSEC」でも、Ag使用量の削減が話題の一つでした(日経エレクトロニクス 2013年11月11日号 解説記事「太陽電池に革新を、新発想の提案が続々」参照)。例えばカナダCanadian Solar社は、次世代セルのセル表面のAg使用量を、15%削減することに成功しました。

 しかし、Ag使用量の削減にも限界があるでしょう。そこで次の対策として、Ag配線から銅(Cu)配線への移行の検討が進んでいます。例えばカネカは、Cu配線とヘテロ接合を採用した単結晶Si型太陽電池セルを開発しています。Cuはめっきで形成する方式です。パナソニックの「HIT太陽電池」に代表されるヘテロ接合では、Agペーストの焼成温度を十分に高められないため、Ag配線の抵抗が高くなるという課題がありました。このためAgペーストからCuめっきに変更できれば、コスト削減とともに、配線抵抗を下げられるのです。その結果、出力が増えて、変換効率も高まります。

 コスト削減とともに特性向上にもつながるCu配線への移行は、条件さえ整えば一気に進む可能性があります。振り返れば、私が半導体技術者だったころ、半導体分野でも配線抵抗を下げるためにAl配線からCu配線に移行しました。いち早く導入を宣言するメーカーが現れ、「Alは古い技術」というイメージが定着し、各社が慌てて追随したのを覚えています。太陽電池でも同じことが起こりそうな予感がします。