ここに、工程情報を含むXVLの本質的かつ極めて重要な価値がある。設計者の作成した3D-CAD情報は、設計者が見たい情報であって、生産技術や製造部門が見たい情報そのものとはいえない。生産技術や製造部門は組立工程に応じた構成で3Dモデルを見たいのだが、これを3D-CADで表現することは困難である。ところが、工程DBとXVLによって、生産技術や製造部門の見たい3Dイメージを容易に作成できるようになったのである。

 IT部門が「これで現場は便利になるだろう」と思い込んで開発したシステムは、必ずしも現場ニーズに即していないことから、受け入れられないことも多い。しかし、現場が必要に応じて作成したものであれば、そのニーズは絶対に確実である。これをIT部門がシステム化して提供すれば、必ず現場に受け入れられるだろう。

本連載第10回では、変更で生じる現場の負担を考慮して表面的な変化はできるだけ抑えつつ、本質的な仕組みの部分を大きく改善していくことを、前向きな意味で“ゆでガエル方式”と呼んだ。だが、現場は敏感にその本質を感じ取り、有効なものはしっかりと利用して自らの改善に活用するのである。想定を超えて活用が広がっていく姿は、推進部門の立場でも、この上なくうれしいことであろう。ゆでガエルの恩返しといったところだろうか。

 人を動機付けることに関して、アメとムチという言葉がある。インセンティブを与えることで、人は一所懸命に働くというという考えだ。ところが最近の研究では、明示的にインセンティブを与えても、効率化につながらないケースの方が多いことが証明されているという。インセンティブの効用があるのは単純作業であって、創造的な仕事ではむしろ逆効果になるのだ。

 “アメ”は単純作業の多かった20世紀型の製造業には有効な手段であったかもしれないが、21世紀の日本に残る製造業の現場は、創造的な職場になるはずだ。そこではアメでもムチでもなく、例えば3D情報を中心にさまざまな情報を取り出せる仕組みが現場の創意工夫を引き出す。そんなことを、三菱農機の事例が教えてくれると言えよう。