日経エレクトロニクスでは2013年9月16日号から、NEアカデミー・コラムにて連載「やさしい熱設計講座」を始めました。熱設計の基礎である伝熱や熱対策、そして基本的な熱設計手法を紹介していまして、読者アンケートの評価も上々です。最新号(11月11日号)では「対流」の効果を解説していますので、興味のある方、ぜひご覧ください。

 「やさしい熱設計講座」の著者であるサーマル デザイン ラボ 代表取締役の国峰尚樹氏によれば、以前に比べて熱設計は難しくなっているそうです。その要因は幾つかあります。代表的な要因を挙げると、「電子部品が小型化したために、自分で自分を冷やせなくなった」こと。小型化により電子部品の表面積が減少し、部品表面からの放熱能力が急速に低下しています。電子部品から何らかの手法で熱を逃がさないと、電子部品の温度が高まり、熱暴走や劣化を引き起こしてしまいます。

 実際には、そうした事態が起こらないように、電子部品の上面にヒートシンクを貼り付けて放熱能力を高めたり、電子部品の実装面(パッケージ底面や端子)からプリント基板側に熱を逃がしたりといった手段を採っています。このうち、見逃せないのがプリント基板側に熱を逃がすルートの確保。小型部品ほどプリント基板への放熱が支配的になっているのが、その理由です。従って、電子部品が所定の温度以下で駆動させるためには、回路設計の段階でプリント基板への電子部品の放熱特性を把握しておかねばなりません。

 ただし、プリント基板への放熱ルートの把握が“くせ者”。プリント基板への放熱量をつかみにくい、つまり放熱ルートの熱抵抗の把握が難しいそうです。プリント基板上に実装した電子部品の消費電力量の測定は難しく、さらには電子部品からプリント基板に逃げる熱量の測定が困難といわれます。このため、プリント基板への電子部品の放熱特性(つまり熱抵抗)を正確に見積もりにくい状況でした。熱抵抗の誤差が大きいと、実機を組み上げた後で問題が生じます。想定よりも電子部品の温度が高く、熱暴走してしまうケースもあるでしょう。逆に、電子部品の温度が想定よりも低く、放熱部品にコストダウンの余地があるケースもあるかもしれません。

 こうした問題を回避するために、国峰氏はSiM24および名古屋市工業研究所と共同で、電子部品からプリント基板への放熱ルートの熱抵抗を実機上で測定できるシステムを開発しました。プリント基板上に実装した電子部品の上に測定ヘッドを取り付けて、電子部品を駆動しながら計測します。測定ヘッドは空冷ファンを取り付けたヒートシンクになっており、空冷の度合いを変えながら、電子部品の投入電力と表面温度、外気温から熱抵抗を算出するというものです。

測定中の様子。写真中央部に、LSI上に取り付けた測定ヘッドが見える
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 電子部品の投入電力から発熱量全体Qgが分かります。電子部品からの放熱のうち、測定ヘッド側に逃げる熱量をQa、プリント基板側に逃げる熱量をQbとすると、

Qg=Qa+Qb

となります。電子部品への投入電力を一定とし、空冷ファンの回転数を変えると電子部品からヒートシンク側に奪われる熱量が変わります。そこからQbを推定するというものです。SiM24によると、推定誤差は5%以下。仕様によりますが、測定システムの値段は80万円からとのこと。既に受注を始めています。

測定システムの画面(写真:SiM24)
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 今回の測定システムを共同開発した1社であるSiM24は、応力解析や熱解析、振動解析など、受託サービスを手掛けています。熱解析は受託サービスのメニューに含まれているので、測定システムを製品として販売してしまうと、同社の受託サービスに影響が出るのでは、と思ってしまいます。しかし、昨今の顧客の状況を鑑みると、今回の製品化は道を誤っていないと言います。

 SiM24で熱解析を行う際、顧客から測定対象となる実機を預かっているのですが、最近は実機の提供に難色を示すケースが目立ってきたとのこと。機密事項が多く、社外に見られたくないことが主な理由でしょう。今回の測定システムを販売することで、こうした受注の取りこぼしをなくそうという考えです。

 なお、SiM24は、パナソニックからスピンオフした、2005年設立のベンチャー企業。ここ数年、エレクトロニクス企業は事業環境が芳しくなく、依然としてリストラが続いています。技術力や豊富な実務経験があるにもかかわらず、離職せざるを得ない技術者は少なくありません。その一方、開発リソースがある大企業には活用されない事業シーズが多くあるとの指摘があります(Tech-On!関連記事)。SiM24のように技術力を武器に挑む大企業発ベンチャーが目立ってくると、自らの技術力で勝負するハードルが低くなるかもしれません。