既存事業から独立させる

 そこで、組織設計の工夫によってすり合わせの硬直性を超えようとする仕組みが「二刀流組織」です。二刀流組織とは、すり合わせが強く作用している既存部門とは別に、新しい価値次元による市場創造や新しい製品戦略に専念する部門を設ける組織戦略です。「新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れなければならない」というわけです。二刀流という言葉は、新しい価値基準や新しい開発プロセスを、既存事業の活動から分立させつつも、性質が異なるこれら両方の活動を並行して進めるという意味を含んでいます。それが、二刀流組織のポイントです。

 既存部門では、既存製品に適した業務プロセスや仕事の進め方、価値基準が確立されています。成功体験を繰り返す中で「この製品とはこういうものだ」という製品に対する価値基準が定着していきますが、一方でその基準は先入観や固定観念としても作用するため、新しい価値次元を持ったコンセプトに適切な評価を下せなくなります。それは、すり合わせの作用によって一層増幅されます。既存部門の精緻で安定的な業務プロセスは、新しい市場を開拓したり、育成したりすることには適していません。

 それ故に、既存部門から切り離された新しい部門を作り、そこで新しい価値基準やプロセス、経営資源を構築し、戦略転換に取り組んでいくことは、組織設計として合理的です。ただし、単に独立した部門を新設すればいいわけではありません。「既存部門と新規部門の関係をどう管理するか」という点が重要です。二刀流組織の考え方では、既存部門と新規部門をどの程度切り離すのか、あるいはどの程度統合させるのかという、分離と統合のバランスを巡る判断が重要になります。

 既存事業で構築された価値基準は、新しい価値次元への転換やそれに基づいたコンセプトの創造を阻害することについては既に指摘しました。その恐れが生じない限り、既存事業で蓄積した経営資源は新市場を創造するために大いに活用した方が効果的です。つまり、使える経営資源はできるだけ既存部門と新規部門で共有して活用しつつも、業務プロセスと価値基準は既存部門と新規部門で別にするという慎重なマネジメントが求められます。