二刀流の組織(Ambidextrous Organization)

 これまでの連載で議論してきた内容を図1にまとめました。イノベーションによる持続的成長を達成するには、図1に示すように、「価値次元の転換によるコンセプトの創造」と「すり合わせ型から組み合わせ型への転換」という産業ライフサイクルの2つの段階で転換が必要です。しかし、すり合わせが硬直性へと転化してしまうことによって、戦略転換が難しくなるのです。新市場の創造につながるイノベーションを生み出せなかったり、生み出せたとしても優位性を持続できなくなったりする大きな原因は、ここにあります。

図1●イノベーションを持続させるための2つの転換
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 この硬直性への転化に対して、どのような処方箋があるのでしょうか。まず考えられるのは、トップダウン型の経営スタイルに切り替えて経営トップの求心力を高めるという方策です。戦略転換に対する組織的硬直性を、経営トップの力によって解消するわけです。ソニーの創業者である盛田昭夫氏が社内の反対を押し切って「ウォークマン」という新たなコンセプトを具現化したように、トップの求心力を高めることで新市場の創造に向けた組織の実行力を高めるという考え方です。

 盛田氏は創業者という立場だったため、いざというときにトップダウン型の経営スタイルに切り替えることが可能でした。しかし、コンセンサス重視でやってきた経営者がいきなりトップダウン型に切り替えようとしても、なかなかうまくいかないでしょう。生え抜きのサラリーマン経営者の場合は、なおさらです。経営層に外部の血を入れることは有効かもしれませんが、いずれにしても経営スタイルについては中長期的な視点で考えていかなければなりません。何よりも経営者個人の資質に大きく依存する部分があります。