製品ライフサイクルの速度が影響

 この硬直性が産業に及ぼす影響の度合いは、産業の特性に依存します。実際には、全ての産業に同程度の影響を及ぼすわけではなく、特に製品ライフサイクルの速度によって大きく変わるでしょう。

 エレクトロニクス産業の製品は、自動車産業と比べて非常に速いライフサイクルを備えています。例えば、シャープが液晶テレビ「アクオス」を初めて販売したのは2001年ですが、それから10年ほどで市場は成熟し、液晶テレビはコモディティー化しました。製品ライフサイクルが速い分野では、迅速な戦略転換が必要になるのです。そのような産業では、硬直性へと転化したすり合わせ能力が迅速な戦略転換を阻害する大きな要因になるであろうと推測されます。硬直性は、深刻な影響を及ぼすはずです。

 一方、製品ライフサイクルの速度が緩やかな自動車産業は、エレクトロニクス産業ほどの迅速な戦略転換を迫られないので、すり合わせ能力が戦略転換をそれほど大きく阻害することはないでしょう。時間をかけた対応が許される環境にあるからです。現在、組み合わせ型への戦略転換で先行している独Volkswagen(VW)社に追随する形で、トヨタ自動車や日産自動車、マツダなど多くの自動車メーカーも組み合わせ型に製品戦略を転換しようとしています。たとえVW社に遅れたとしても、戦略を転換すること自体は、前述のように理に適った動きとして評価できます。そして今のところ、硬直性が影響する度合いは限定的なものにとどまっています。

 市場が成長するにつれて、合理的な戦略は統合型から組み合わせ型に変わります。市場の成長に合わせた戦略転換の成否は持続的競争優位に影響を与えますが、実際の影響度合いは個別の産業特性によって異なります。しかし、あらゆる産業で製品ライフサイクルは速まる傾向にあることから、製品戦略の転換についてもこれまで以上にスピードが求められるようになるかもしれません。

■参考文献
1)Susan Sanderson, Mustafa Uzumeri, “Managing product families: The case of the Sony Walkman,” Research Policy, Vol.24[1995], Iss.5, pp.761-782.