垂直統合型を維持したシャープ

 これに対し、シャープは液晶テレビの製品戦略を転換せず、市場草創期に力を発揮した統合型の製品戦略を、市場の成熟段階に至っても継続しました。事実、2009年に稼働した堺工場では、その敷地内に装置メーカーやガラス基板を手掛ける部材メーカーなど19社を集積させ、これらの関連会社を「バーチャル・ワンカンパニー」としてあたかも1つの会社のように運営し、装置メーカーや部材メーカーとの細かな調整機能を重視しました。このように、それまで主力だった亀山工場の垂直統合度をさらに進化させたのです。

 市場の成長に応じて持続的な競争力を維持するには、製品戦略を統合型から組み合わせ型に転換する必要があります。しかし、戦略の転換とは、これまで成功をもたらしてきたやり方や仕組みを捨て、新しい仕組みへと大きくかじを切ることに外なりません。統合型から組み合わせ型に転換するには、開発プロセスを大きく変える必要がありますし、それに伴い分業の構造や権限の配分も変わります。その過程で、多くの反対勢力が台頭することは容易に推測できます。そのような中にあっても、あえて戦略を転換できる実行力を組織として持っているかどうかが切実な課題になるのです。多くの企業で製品戦略をうまく転換できないのは、問題が認識されていないからでも、戦略転換の必要性が認識されていないからでもありません。組織内に働くさまざまな力学が、組織内に波風を立てまいとして合理的な判断を躊躇させるのです。

 すり合わせが機能している組織では、そのような力が特に強く働きます。そのために、市場の成長段階に合わせて製品戦略を転換することが一層難しくなります。統合型の製品戦略でこれまで成功してきたために、「これがうちのやり方だ」という強い自負を持っています。その中で波風を立ててまで、あえて製品戦略を転換しようとする判断を下し、それを実行することは、難しいと言わざるを得ません。

 一方、「これまでこのやり方でうまくいったのだから継続すべきだ」と、現在の仕組みや方法を踏襲することには、組織内の合意が得られやすくなります。市場の草創期で成功した統合型の企業には、市場が成長して製品戦略を組み合わせ型に転換する必要性が生じても、統合型の戦略や仕組みを取り続けようとする組織的慣性が強く働くのです。このようにして、すり合わせ能力は硬直性に転化します。