ウォークマンの巧みな製品戦略

 ウォークマンの成功要因を研究したSusan Sanderson氏らは、ソニーの製品戦略の秀逸さを指摘しています。表2表3から、その製品戦略を垣間見ることできます。

 表2が示しているのは、ソニーが他社を凌駕する頻度でモデルチェンジを繰り返したという事実です。1989~1990年に日米両方の市場でそれぞれ毎年約20機種を新たに発表しています。さらに、米国市場では1980年代にトータルで250機種近くを送り出しました。

表2●1989~1990年の市場ごとの製品モデル数(Sanderson and Uzumeri[1995]を基に作成、当時の社名で表記)

 表3は、製品機能別の日米市場でのシェアを示しています。日本市場ではリモートコントロール機能のニーズが高く、米国市場ではラジオ機能や防水機能のニーズが高かったことが分かります。同じ携帯音楽プレーヤーといっても、日本と米国では顧客の要望が大きく違うのですが、それら異なる要求に対してもソニーは丁寧に対応していたのです。

表3●日米市場における各機能を備えた製品モデルの割合(Sanderson and Uzumeri[1995]を基に作成)

 つまり、ソニーのウォークマンは、頻繁なモデルチェンジを実施するとともに、多様な顧客の要望にも十分に応えていました。そのことが、日米両方の市場で長期にわたり高いシェアを占めることができた大きな要因だと考えられます。そして、それを可能にしたのは、長期安定的に使える少数の共通基盤部品をベースにして、基盤部品と補完部品の組み合わせで派生製品を迅速に低コストで開発する組み合わせ型の製品戦略を採用したことにあります。事前にデザインルールを決めることで、設計段階での細かな調整の手間を削減したのです。