統合型設計から転換できない硬直性

 新興国の著しい台頭に直面する日本の企業にとっては、新しい市場を創造すると同時に、市場の成長を持続的にリードすることが一層重要になっています。しかし、この2つの課題は性質が異なるため、解決に必要となる戦略が異なります。市場のリーダーであり続けるには、市場の成長段階に合わせて製品戦略を転換しなければなりません。

 新市場の創造に成功したにもかかわらず、製品戦略を転換できずに持続的な競争力を維持できなかった例は多くあります。例えば、「デジタル家電3種の神器」といわれた薄型テレビ、デジタルカメラ、DVDプレーヤーが挙げられます。このうち薄型テレビとDVDプレーヤーは日本企業が市場草創期に世界をリードしましたが、市場の成長につれて競争力を失っていきました。他方、新市場創造の成功例として紹介したソニーの「ウォークマン」は携帯型音楽プレーヤーの市場を生み出しただけではなく、10年以上にわたり世界市場で約50%のシェアを占めていました。この違いは、市場の成長に製品戦略を適合させられるかどうかにあります。

草創期は「垂直統合型」

 新市場の草創期では、強力なリーダーシップの下で新しい価値次元に転換した後、革新的なコンセプトを練り上げ、それを製品化するプロセスに移行します。しかし、新しいコンセプトの製品が本当に市場に受け入れられるかどうかは分かりません。その意味で製品化は、試行錯誤の実験的なプロセスといえます。

 製品化の段階で重要なポイントは、新しい価値次元を秀逸なコンセプトに磨き上げることと、顧客の最低需要を満たす水準まで性能と機能を引き上げることです。そのためには、部品間の緊密な相互依存関係の中で微調整を繰り返しながら、コンセプトを練り上げつつ、製品を仕立てていく作業が必要です。このプロセスと相性が良い組織の構造は、全ての部品を自前でコントロールできる、いわゆる「垂直統合型」になります。つまり、市場の草創期では垂直統合型の組織および統合型の設計思想が合理的です。そして、日本のすり合わせ能力はそうした仕組みと相性が良いのです。すり合わせ能力は新しい価値次元に転換するまでの過程では阻害要因となりますが、価値次元を転換した後のコンセプトを練り上げたり製品化したりする過程では強みとして作用します。

 新製品のコンセプトが市場に受け入れられると、市場は急速に成長し、顧客層も拡大していきます。その段階で重要なのは、増加する顧客の多様な要望に対して、迅速に低コストで製品を供給できる戦略です。多様化した顧客の要望に草創期と同様の統合型の設計思想で対応していては、コストは増加し納期は遅くなってしまいます。