合理性よりも組織内融和を優先する

 第2の副作用は、すり合わせは濃密な人間関係を生み出すので、合理性や論理性よりも情実に基づいた判断を下す傾向が次第に強まることです。きめ細やかな連携や調整を行うには、自分の事情や立場を主張するだけではなく、相手の事情や立場に応じて自分の立ち位置を微調整する必要があります。

 例えば、日本企業の設計部門は、製造部門に配慮して、工場での造りやすさを考慮して設計します。一方、欧米企業の設計部門はそうではありません。設計図面の通りに造ることを工場に要求しますが、工場での造りやすさを考慮することは基本的にありません。

 この例では、すり合わせは相手(製造部門)の事情や立場に配慮するという意味で美徳なのですが、その半面、濃密な人間関係が形成されるので、いわゆるしがらみが増えていきます。人間関係が深まれば、摩擦を避けようとする気持ちが働くのは、人間の本性として避けられないでしょう。

 この副作用は、歴史ある伝統的な組織であればあるほど強く働き、組織の変革を難しいものにします。組織を変革しようと思えば、必ず既得権益層からの反対があり、組織の中に摩擦が生まれるからです。だからといって組織内融和を優先すれば、そうした融和を脅かしかねないイノベーションには踏み出せなくなってしまいます。

 新しい市場を作り出し、競争優位を持続するには、製品のライフサイクル上、2つの転換を必要とします。新しい市場を作り出すための「価値次元の転換」と、市場の成長に合わせた「製品戦略の転換」です。しかし、すり合わせ能力が持つ2つの副作用は、それらの転換を阻害する硬直性へと転化するのです。しかも、すり合わせが強ければ強いほど、その副作用は効いてきます。

 次回以降は、価値次元の転換と製品戦略の転換に対して、すり合わせの副作用がどのように影響するかについて考察していきます。

■参考文献
1)片瀬京子,「これが日本のものづくりの底力だ 限界を超えて「うるさら7」を生んだダイキン工業 強さの秘密【前編】」,『現代ビジネス』,2012年12月14日.
2)同上,「ルーム・エアコン『うるさら7』の開発 (第1回) こんなん、ありえへん」,『日経エレクトロニクス』,2013年2月18日号,pp.73-76.
3)柴田友厚,『日本企業のすり合わせ能力』,NTT出版,2012年.