硬直性へと転化するすり合わせ能力

 日本に強みをもたらしてきたすり合わせ能力も、時間の経過とともにイノベーションを妨げる硬直性へと転化する危険性を秘めています。繰り返しになりますが、ここでの硬直性とは、環境の変化にもかかわらず、従来路線の修正や転換を阻害してしまう組織体質を意味しています。そのような硬直性が生じる理由は、すり合わせの「副作用」にあります。

 第1の副作用は、細やかな点にまで配慮するすり合わせの特性上、大局的・俯瞰(ふかん)的な視点を持ちにくくなることです。細部にまで気を配るすり合わせ能力は、日本の製造業における製品の小型・軽量化や、日本のサービス業における「おもてなしの精神」など世界から高く評価されている部分を根底で支えてきました。

 しかし、すり合わせは、時として全体を俯瞰する大きな視点を犠牲にします。細部にばかり注意や関心が向き、全体を見据えた大きな手が打てないということになりがちです。

 日本企業はすり合わせを得意とする故に、大きな構想やビジョンを描くのが苦手だといえるかもしれません。もちろん、細部にまで注意や関心を払う能力と大きな構想やビジョンを描く能力は、両立できないわけではありません。それでも、細部ばかりを気にしていれば、全体像になかなか注意や関心が向かないという傾向はどうしても生じてしまうでしょう。そのため、目先のことにとらわれて、イノベーションを生み出す機会を逸してしまう恐れがあります。