コンカレント・エンジニアリングで限界を突破

 コンカレント・エンジニアリングでもすり合わせ能力は不可欠です。この手法は、本来であれば連続的に実行しなければならない上流工程と下流工程を一部並行して走らせることで、問題を早期に発見・解決し、開発リードタイムを短縮するために用います。上流工程と下流工程、例えば設計と生産を重複させながらも、それによる混乱を防いで開発リードタイムの短縮という成果に結び付けられる理由は、早い段階から設計情報をきめ細かく頻繁にやり取りすることによって、上流工程と下流工程を微調整していくからです。そうした緊密な微調整ができなければ、コンカレント・エンジニアリングは混乱を招くだけの取り組みになってしまいます。

 上流工程と下流工程を重複させる手法がコンカレント・エンジニアリングとして初めて概念化されたのは、1980年代の自動車産業研究においてです。それから30年以上が経っていますが、もちろんこの手法は現在でも有効ですし、自動車以外の産業でも広く採用されてきました。時代が変わっても優れた経営の原理は変わらないことを示す良い例といえます。

 最近コンカレント・エンジニアリングをうまく取り入れた企業の例としては、ダイキン工業が挙げられます1、2)。同社は2012年11月に発売したルームエアコン「うるさら7(セブン)」で新しい開発体制を採用しました()。製品の最大の特徴は、省エネルギ性能の指標となる通年エネルギ消費効率(APF:Annual Performance Factor)が7.0と非常に高いことです。APFは高ければ高いほどエアコンの省エネ性能が優れていることを意味します。うるさら7の開発が始まった頃の製品のAPFは最高でも6.0程度であり、それをいきなり7.0にまで高めるのは無理だと考えられていました。

図●ダイキン工業のルームエアコン「うるさら7」(写真:ダイキン工業)

 しかし、ダイキン工業はうるさら7の開発で「究極のコンカレント・エンジニアリング」ともいうべき開発体制を採用することによって限界を突破しました。それは、製品コンセプトの企画から設計仕様の策定に至る全ての過程で、開発/生産技術/調達/製造/営業などの関連部署が緊密なコミュニケーションを図りながら、課題を抽出・共有・解決するというものです。従来と異なり、開発や生産といった技術現場だけではなく、調達や営業の部署も参加している点が「究極」と称するゆえんです。