連載主旨
 かつて世界を席巻した日本の製造業から、イノベーションを生み出す力が失われつつある。その原因の1つが、日本の強みと考えられてきた「すり合わせ能力」だと言ったら驚くだろうか。すり合わせ能力は従来路線から軌道転換しにくい組織体質の素地となり、イノベーションを阻害する可能性がある。

 もちろん、すり合わせ能力の高さは誇るべきもので、それ自体が「悪」というわけではない。問題は、イノベーションの過程ですり合わせが威力を発揮せず、むしろ後退させてしまう時期があるということだ。この連載では、すり合わせ能力がイノベーションを阻害する理由をひも解いた上で、すり合わせのデメリットを最小限に抑えてイノベーションを生み出すための「二刀流組織」の考え方を紹介する。
柴田 友厚(しばた ともあつ)
東北大学大学院 経済学研究科 教授
京都大学理学部卒業。ファナック、笹川平和財団勤務の後、東京大学大学院先端学際工学にて博士(学術)取得。香川大学大学院地域マネジメント研究科教授を経て、2011年4月から現職。主な著書に、『日本企業のすり合わせ能力』(NTT出版、2012年1月)、『モジュール・ダイナミクス』(白桃書房、2008年7月)など。『Research Policy』『R&D management』『International Journal of Innovation Management』『組織科学』『一橋ビジネスレビュー』など国内外のさまざまなジャーナルへの論文掲載多数。