約1カ月前に書いた「Editor’s Note」で、ホンダが開発中の無線LANを使った車車間通信技術を取り上げました。ホンダの提案に「その手があったか」と感心したのですが、この1カ月の間にまた唸る提案がありました。それが、自動車専用の車車間通信技術をスマートフォンに搭載しようとする米Qualcomm社の取り組みです(Tech-On!の関連記事)。まだ試作機の段階ですが、実現すればこれまでの課題を一掃する可能性を秘めます。

 前に書いたように自動車の予防安全能力を高める上で車車間通信は重要ですが、いかんせん、普及への道筋が見えませんでした。ネットワーク機器は、通信相手がいてこそ効果を発揮します。普及の初期段階は利便性が低く、その段階で誰が専用通信機を購入するのかと指摘され続けてきました。ホンダの提案は、スマホの無線LANを自動車通信に転用してこれまでの課題を解決しようとするものです。

 一方でQualcomm社の提案は、自動車通信をスマホに搭載して解決しようとするもの。ホンダとアプローチは逆ですが、最も普及する携帯通信端末に車車間通信を取り込もうとする発想は同じです。具体的には5.9GHz帯を使う自動車専用通信「DSRC(Dedicated Short Range Communication)」をスマホに搭載することを狙います。

 Qualcomm社の取り組みを聞いたとき、優れたアプローチだと思いつつも、本当に実現するのかとも感じました。技術のハードルがとても高そうに見えるからです。

 車車間通信に専用の通信方式を使うのには理由があります。特に重要なのが信頼性の向上と高速移動への対応。5.9GHz帯のDSRCはIEEE802.11シリーズの規格なので無線LAN技術を基にしますが、200km/hの高速移動に対応するために通信手順をいろいろ省きつつ、信頼性を高める仕組みを導入しています。

 結果的に通信プロトコルは一般の無線LANと随分異なり、消費電力や通信モジュールの寸法は大きくなります。例えばNECが開発中のDSRC用通信モジュールの大きさは現状で4cm角ほど。随分と小さくなっているので自動車に搭載するには十分ですが、スマホに載せるにはさらなる小型化が欠かせません。

 現段階でQualcomm社から実現性が高そうだと思える明確な答えは得られませんでした。ただ同社はこうした課題をもちろん認識していますし、解決に向けたアイデアをいくつか持っているようです。そしてなにより印象的だったのは、同社の技術開発を指揮するChris Borroni-Bird氏の言葉。「無線通信技術の急速な進化の歴史を振り返ると、DSRCがスマホに載らない理由はない」と言い切ります。楽観的だなあとは感じつつも、私もそう思う一人です。時間は少しかかるかもしれませんが、ぜひとも実現してほしい技術です。