2013年10月15~18日まで東京ビッグサイトで「第20回 ITS世界会議 東京2013」が開催されました。日本の自動車メーカーを中心に多くのデモンストレーションが披露されましたが、やはり何といっても注目は、自動運転技術に尽きるでしょう。

 トヨタ自動車やホンダが自動運転車の走行を実演した他、日産自動車は2013年8月に米国カリフォルニアで初披露した自動運転車を展示しました(トヨタの関連記事ホンダの関連記事日産の関連記事)。

 自動車メーカーだけでなく、デンソーやアイシングループといった電装品メーカーも自動駐車システムを実演するなど(デンソーの関連記事アイシングループの関連記事)、自動運転に関するデモや展示が目白押しでした(日経エレクトロニクスでは2013年11月25日号でITS世界会議の詳細を掲載する予定です)。

 2013年に入って、多くの自動車メーカーが「2020年に自動運転の実用化」を掲げ、消費者に積極的にアピールし始めています。これは数年前ではとても考えられない光景です。自動車メーカーといえば、安全に関する話にはコンサバティブで、自動運転はおろか、自動ブレーキというキーワードさえもタブーな話とされてきました。

 その状況を大きく変えたのは、やはり米Google社が実証試験を開始した自動運転車の存在でしょう(関連記事)。多くの消費者がGoogle社の取り組みを称賛し、将来の自動車像として期待を寄せたからです。こうした消費者の潜在的な需要に対して、「我々も自動運転を実用化する」と先進的な高級ブランドを展開する欧州の自動車メーカーなどが反応し始めたわけです。そして、雪崩を打つように自動車業界全体が自動運転の開発に大きく舵を切り始めました。

 確かに自動運転を実現するための周辺技術も成熟してきています。ミリ波レーダやカメラを用いた認識システムは高度化するとともに、劇的な低コスト化が進んでいます。2020年には、先進国を中心に高速道路や整備された一般道路を対象に何かしら自動運転と呼べる車両が走行できる素地は整ってきているといえるでしょう。

ACCがなければ興味なし

 一方で、ユーザー側の需要も確実に高まっています。数年前までは「安全はお金にならない」とされてきましたが、今は安全に関する機能で自動車が売れる時代になりつつあります。例えば、日本では自動ブレーキや全車速追従機能付きクルーズ・コントロール(ACC:adaptive cruise control)を求める消費者が確実に増えています。私の周りでもACCが標準的に搭載されるまで自動車の購入を先延ばししている者が複数います。しかも、先延ばししているのは、実は奥さん層であるというのが興味深いところです。

 私が最近聞いたエピソードがあります。ある販売店からの新車セールスの電話に出た奥さんが「自動ブレーキが付いています」とアピールした営業担当者に対して、「ACCがないならまったく興味がありません」とけんもほろろに断ったとのこと。それくらいACCに対する消費者の需要が高まっているわけです。

 多くのユーザーが渋滞中の運転や高速道路などの長時間運転時に運転を支援してくれるシステムを望んでいると感じています。しかも自動ブレーキについては、軽自動車に5万円以下で搭載可能となったことで、今後は標準装備の方向に向かうでしょう。一方、ACCは今後、ミリ波レーダやカメラの低コスト化が急速に進むことで、2014年以降には多くの車種でオプションではなく、一定のグレード以上の車種には標準搭載のような扱いが始まるはずです。

 その後は車線を検知し、車道の中央に車両を維持する機能「LKA:lane keeping assist」がどんどん普及すると見ています。さらにACCとLKAを組み合わせて、渋滞中の低速運転をほぼ自動化する「TJA:traffic jam assist」が2013年末から登場する予定です。例えば、ドイツBMW社は40km/h以下で作動するTJAの機能を2013年12月に実用化することを明らかにしています。

 このように徐々に自動運転に近い形での運転支援システムが浸透することで、今後自動運転に対する社会的な受容性も変わるはずです。それに合わせて、法規制や技術指針も欧米では大きく変わるでしょう。その際、日本がどうなるかは国土交通省や警察庁などの省庁に大きく委ねられています。

 米国やドイツでは自動運転に対する実証試験を実施しやすい環境が整ってきましたが、日本ではまだまだ制約があるのは事実です。何せ運転中にステアリングから手をずっと離していれば、安全運転義務違反に問われ兼ねないわけですから…。多くの実証データが必要になる自動運転技術ですが、日本国内で効率的に自動運転に関するデータを収集する手だてを今後実現しないと、欧米に後れを取りかねない懸念があることは確かです。