耐久性の向上と小型化のため、SRモータを採用

 耐久性の向上と、昇圧回路の小型化を実現するため、シャープは新しいタイプのモータの採用に踏み切った。リラクタンス・トルクのみで回転する「スイッチト・リラクタンス(SR、switched reluctance)モータ」である。

 このモータは永久磁石を使わないため、温度変化で特性が変わりにくく回転が安定する、ブラシがないため摩耗せず寿命が長いといった特徴がある。原理的には古くから存在するモータだ。ただ、家電ではあまり採用例のなかった。10年ほど前にDyson社が掃除機の一部機種に採用した例はあるものの、「制御が難しいことから、その後は採用例がないのが現状」(シャープ)という。

 シャープは、外部のモータ・メーカーと共同で掃除機用のSRモータを開発した。このモータ・メーカーは、電気自動車(EV)用にSRモータの研究開発を進めていた。EVの前に家電で経験を積みたいというモータ・メーカーと、コードレス掃除機を実現したいシャープの思惑が一致した形だ。

シャープのコードレス掃除機の内部(左)と、内蔵したSRモータ(右)
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 掃除機の使用環境は意外に過酷である。使用する温度や湿度は安定しているものの、個人個人で使い方が千差万別で、モータの負荷が高まりやすい。ゴミによるフィルターの目詰まりや、大きなモノを吸い込んだ際に風が流れにくくなることがあるからだ。負荷の高まりは、モータの温度上昇につながる。モータ・メーカーとしては使用環境の変化への対応はEVへの応用にも大いに役立つため、そのノウハウを得たかったようだ。

 こうした場合の回転制御について、シャープは掃除機開発で培ってきた制御ノウハウをモータ・メーカーに伝え、共同開発を進めた。電池搭載分の重量増を減らすため、モータのハウジングを鉄からAl合金に変更して軽量化。Al合金の採用で温度変化が大きくなりやすいというデメリットは生じたものの、制御用ソフトウエアの工夫で吸収したという。

 シャープのコードレス掃除機では、2次電池の出力電圧25.2Vを70Vに昇圧することで100Vの交流電源に近い吸塵力を実現した。「この昇圧を従来型のモータで実装すると、昇圧回路の基板がA4サイズになってしまう」(同社)。今回はSRモータの採用で、コード付きの小型掃除機と同等のサイズの筐体に収める程度に基板を小型化することが可能になった。