無線LAN製品の利用に欠かせない特許を持つ企業が、米マクドナルド社や米スターバックス社などを特許侵害で訴えていた裁判で、標準必須特許のライセンスの在り方を決定付ける判決が出た。米国が数年来、推し進めてきた特許制度改革の流れを後押しする内容だ。行き過ぎた特許訴訟が経済成長と技術革新の阻害要因になると見て、米政府はパテント・トロール(特許の怪物)の活動を抑え込む政策を進めている。この判決は、その方向と重なるものだ。ハイテク分野の特許活用に詳しい植木正雄氏(スターパテント)が2回に分けて解説する。(Tech-On!編集)

 標準必須特許(以下「必須特許」)をめぐる訴訟でまたもや意義深い判決が出た。2013年9月27日、米イリノイ州北部地区連邦裁判所における米Innovatio IP Ventures社(以下「Innovatio」)と無線LAN装置メーカー5社との間の特許侵害訴訟で、必須特許のRANDロイヤルティ料率が示されたのだ(事件番号11-cv-9308)。

ライセンス料は要求の1/100に

 判決では、Innovatio社が保有するIEEE802.11 Wi-Fi関連必須特許19件について、そのRANDロイヤルティ料率はWi-Fiチップ1個当たり9.56米セント(0.0956米ドル)という低額に決まった。Innovatio社としては無線LAN機能を搭載した製品1台当たり3.39~36.90米ドルを見込んでいただけに、ライセンス収入見込みは100分の1のオーダーで大幅減額となった格好だ。

 Holderman判事によるこのInnovatio裁判のRANDロイヤルティ料率決定は、2013年4月25日、米ワシントン州西部地区連邦裁判所の「Microsoft社対Motorola社裁判」(事件番号10-cv-1823)においてRobart判事が下した判決に続くものである。Robart判決は、本連載の2013年5月31日付け記事「標準必須特許のロイヤルティ基準を米地裁が示す、スマホGoogle陣営に打撃」でお伝えした通り、必須特許に係る訴訟の歴史の中で、初めてRANDロイヤルティ料率を算定したという画期的な意義を持つものであった。

 そこでは、米Motorola Mobility社の保有するH.264およびIEEE802.11関連必須特許群のRANDロイヤルティ料率が米Microsoft社製品1台当たり約4米セントというわずかな額に決められていた。これら2件のRAND料率判決で続けざまに極めて低い料率が決定したことによって、必須特許のライセンス料を高めに設定できないことが明確となった。