最近、日本の電機メーカーのスマートフォン事業からの撤退が相次いでいます。2013年7月にNECがスマートフォンの新規開発と生産を終了すると発表、2013年9月にはパナソニックが個人向けスマートフォンの開発休止を発表しました。両社の開発者の方には何度か取材させていただいたこともあっただけに、とても残念に思います。

 現状、海外市場でシェアを伸ばしている日本のメーカーは「Xperiaシリーズ」を擁するソニーぐらいしかありません。シャープや富士通などは国内では巻き返している感がありますが、海外での存在感は今も薄い。ソニー以外はブランド構築に苦戦しているようです。

 その一方で、中国やインドなどで新興メーカーが続々と台頭しています。例えば中国Xiaomi社は、2010年の創業からわずか3年で年間売上高が300億元(約4862億円)に達しようとしているとのこと。2013年4~6月には中国国内の市場シェアが米Apple社を抜いたという調査データもあります。2014年には米国市場に進出するという噂もあるようです。米国、中国に次ぐ世界3位のスマートフォン市場であるインドでは、Micromax社やKarbonn社といった地場メーカーがシェアを伸ばしています。

 こうした新興メーカーに共通するのは、低価格でそれなりの性能の端末を出しているということです。つまり、ありものの部品を寄せ集めて組み立てれば、消費者を満足させられる性能の端末が出せるようになっている。こうした状況をみていると「パソコンなどと同様に、スマートフォンも技術的にコモディティー化して改善の余地がなくなってきているのでは」とも思うようになりました。改善の余地がなくなることは、技術力を売り物とする日本の部品メーカーにとってビジネスチャンスが減る可能性があるということを意味します。つまり「他国のコスト競争力のある部品メーカーに取って代われれるのでないか」という懸念です。

 そんな折、村田製作所がスマートフォンなどの携帯通信端末向けに開発したトランス部品を取材しました。アンテナとRF回路の間でインピーダンス整合を行う受動部品です。近年のスマートフォンは、内蔵アンテナの設計難度が急速に高まっています。800MHz帯/1.5GHz帯/1.7GHz帯/2GHz帯(例えばNTTドコモ向けの端末の場合)といったように複数の周波数帯域に対応する「マルチバンド化」が求められると同時に、小型化も必要とされているからです。

 従来のスマートフォンでは、インダクタ(L)とコンデンサ(C)を組み合わせたLC回路を使ってアンテナとRF回路のインピーダンス整合を行うのが一般的です。村田製作所が開発したトランス部品は、こうしたLC回路の置き換えを狙ったもので、アンテナのさらなる小型化・高性能化に貢献する可能性を秘めています。例えばLC回路で整合させた場合と同じアンテナ性能を、約25%小さいアンテナ専有面積で実現できることも確認したそうです。アンテナの専有面積が小さくなれば端末設計の自由度が高まりますし、2次電池のサイズを大きくできるなど他の性能の向上にもつながります。

 このようにスマートフォンにはまだ改善の余地が十分あって、そこにビジネスチャンスが潜んでいるとことに気付かされました。日経エレクトロニクスの10月28日号では村田製作所の開発者の方に、このトランス部品の動作の仕組みや機器への適用効果を解説していただきました。興味を抱かれた方は、ご一読いただければ幸いです。

 個人的には「改善によるビジネスチャンスは部品だけではなく、端末のビジネスにもあるのでは」と感じています。つまり日本の端末メーカーが自らの技術力を生かしてやれることは、まだいくらでも残っているのではないかと。ソニー以外の端末メーカーも海外市場に向けて、ぜひ頑張ってほしいものです。