シリコンバレーは歴史的に半導体やハードディスク、パソコンといったハードウエア技術が中心だった。しかし、インターネットの誕生からシリコンバレーの注目はソフトウエアやサービスに移ってきた。そして今、インターネット時代に育った若手技術者は、再びハードウエアに注目しつつある。

 この流れを作っている中心の一つは「Wearables(ウエアラブル)」だ。Wearablesの定義は厳密に決められていないが大雑把に言ってしまうと、「人体を被う装置」だ。このジャンルには、「Google Glass」に代表されるHMD、「Fitbit」が代表する体に掛かるフィットネス用センサー、Google社に買収されたWIMM Labsが手がけていたスマート・ウォッチなどがある。こうした装置のほとんどは、スマホを周辺機器にしている。

 2013年9月30日に米サンフランシスコで開催されたGlazedというウエアラブル・イベントでは、こうした技術が取り上げられた。服にセンサーとエレクトロニクスを付加することで、ズボンをたたくとドラムの音が鳴る技術も登場した。

ウエアラブル機器のイベント「Glazed」の壇上で話すFitbit社のJames Park氏
ウエアラブル機器のイベント「Glazed」の壇上で話すFitbit社のJames Park氏

 ところが、ウエアラブル製品を開発しているベンチャー企業の多くは、ハードウエア技術の経験が浅いことが多い。例えば、前述のフィットネス・センサーを開発したFitbit社のCEO兼共同設立者であるJames Park氏はGlazedの壇上で、「設立当時はハードウエア知識がほとんどなかった」と語り、「真っ白からハードウエアの企業を立ち上げることにかなり苦労した」という。Park氏は、特にハードウエア製造に不可欠のサプライチェーンの設立が難しかったことを指摘した。この点は、Fitbitの競争製品「UP」を手がけているベンチャー企業Jawbone社もよく分かっている。米報道機関によると、同社は2013年9月に約1億米ドルの資金を調達し、年末商戦時期の前に同社の製造能力強化に利用するとういう。

 こうしたハードウエアの起業家を支える環境は、シリコンバレーに整いつつある。今回のGlazedイベントは比較的小規模な展示会だったが、ベンチャー企業を支援する製品やサービスを展示している企業が多かった。例えば、EMS(電子機器受託生産)企業であるPCH International社は、PCH Acceleratorというプログラムを2011年5月から開始していて、ベンチャー企業を対象にハードウエア設計や生産を手助けする。ハードウエア設計・生産の苦労をある程度は気にしせずに、ソフトウエアやサービスに注力してハードウエア製品を開発することができる。