かつて「UWB(Ultra Wide Band、超広帯域無線通信)」というキーワードがエレクトロニクス業界を騒がせたことを覚えておられるでしょうか。壁を通して通信できるとか、有線接続より速い通信ができるとか、雑音を使って通信するとか、もはや周波数の規制を受けないのだとかの非常識な、しかし本当だとすると革命的な噂が飛び交い、そして何やら規格制定に関するイザコザが報じられ、やっと規格が固まった!待ちに待った「Certified」UWB製品が出るよ!というニュースの後、なぜか話を聞かなくなりました。

 UWBとは一体何だったのか?一体なぜあんな夢のような噂が流れ、なぜ規格制定でゴタゴタし、なぜ製品が出たと思った頃に消えて行ったのか?今回は幻に終わった夢の無線通信方式、UWBについて数回にわけてお送りしたいと思います。

「壁を通して1Gビット/秒で通信できるって?!」

 私がUWBに関して最初に聞いたニュースは、確か2003年頃、日本のIT系Webサイトで紹介された「アメリカで新しい通信技術が開発されている」というニュースでした。もはや詳細は覚えていませんが、それは「極めて近距離に限定」した上で、「壁を通して」「1Gビット/秒の速度で通信できる」無線通信技術だ、というのです。そして直観的に、「そんなのはあり得ない」と思ったことは今でもはっきり覚えています。こういったニュースの何が正しくて何が誤解だったのか、今回はその辺を少し掘り下げてみます。

 さて、UWBとは名前のとおり「超広帯域(無線通信技術)」です。定義が「超高速」ではないことに注意してください。ここで言う「帯域」とは占有帯域のことで、IEEE802.11g無線LANであれば通常20MHz、IEEE802.11n高速モード(HT40)では40MHzの帯域を占有しますが、UWBは野放図に広い、少なくとも500MHz、将来的には数GHzにわたる帯域を使うことで「画期的な超高速通信」を実現することが見込まれていました。しかし、なぜ占有周波数帯域が増えたら通信速度が上がる(伝達情報量が増える)のか?これを理解するためには「時間軸」と「周波数軸」の関係と、情報量と周波数についての関係を軽く理解してもらわなければなりません。