今年のCEATECは自動車分野に関する出展が盛りだくさん。そして注目を浴びていたのが自動運転技術であることは周知の通りです。とはいえこの盛り上がりは想定内。今回のCEATECで個人的に意表を突かれたのは、ホンダの提案でした。スマートフォンやタブレット端末の無線LANを使った車車間通信です(Tech-On!の関連記事)。車車間通信を普及させるに当たっての大きな弱点を解決できる可能性を感じました。

 車車間通信は、車両と車両の間で無線通信することで、例えば見通しの悪い交差点でお互いの存在を伝えて事故の確率を下げる技術です。現在、レーダやカメラを駆使する自律型の予防安全技術の開発で各社が切磋琢磨していますが、自律型だけでは“見える範囲”に限界があります。車車間通信があればその限界を格段に広げられます。「事故ゼロ」を目指す上で、車車間通信は必須の技術と私は考えています。

 ただし普及には課題が多い。中でも大きいのが、専用の通信機を車両に搭載しなければならない点です。車車間通信はその性質上、自車だけではなく他車にも通信機がなければ成立しません。ほとんどの車両に通信機が載って初めて真価を発揮します。逆に言えば、普及の初期段階では通信相手が少ないので効果を実感しにくい。このため初期段階では通信機の搭載費用をユーザーは払わないでしょう。では誰が負担するのか。長年議論される問題ですが、誰も答えを出せていません。

 ホンダが提案した技術は、問題そのものを打ち消す可能性を秘めています。新しく通信機を搭載する必要がないためです。ユーザーが車内に持ち込んだスマホを使って車車間通信を実現するので、既にスマホを持つユーザーならば追加コストは基本的にゼロ。スマホの普及の度合いを考えると、負担の議論そのものが無用と言えるでしょう。

 もちろん課題はあります。特に信頼性と通信範囲。スマホの無線LANで、自動車に必要な水準まで通信の信頼性を高められるのか。ホンダは現在、通信速度を下げる代わりに通信の信頼性を高めるアプリケーションを開発して課題の解決を目指します。また通信範囲については100m程度に達する見込み。ただし混雑する環境では50m程度にとどまりそうとのこと。

 私は車車間通信の技術をすべての車両に普及させるには、最終的に義務化する必要があると考えています。ただし義務化の最低限の条件として、同技術が安全に寄与すると実証できるほどに広がっていることが必要です。スマホの無線LANモジュールをそのまま活用するホンダの技術なら、そのことを証明できるほどに普及を進められるのではないか。そんな予感を覚えたのです。