「消費者がどこまで受け入れるかは未知数だが、他社にない独特の態度であることは間違いない」。

 日経エレクトロニクスの9月30日号で、米Apple社の新型「iPhone」を取り上げた記事を書きました。冒頭の文章は、行数が許せば付け足したかった一言です。記事の趣旨は、Apple社には他社と異なる独自の開発姿勢があり、新製品からそれが透けて見えることでした。ただし、実際の製品が大ヒットするかどうかは別の話と思っています。

 新型iPhoneの発表から感じたのは、Apple社の「変わらなさ」です。第一の目玉だった廉価版iPhoneの価格からしてそうでした。米国で99ドルから始まる「iPhone 5c」の値付けは、一年前の「iPhone 5」発表時の「iPhone 4S」、さらに一年遡ったiPhone 4S発表時の「iPhone 4」と同じです。付け加えると、今回「iPhone 4S」の無償提供も発表しましたが、去年は「iPhone 4」、一昨年は「iPhone 3GS」がその役回りだったのです(いずれの価格も2年契約のとき)。

 端末の開発でも相変わらずのこだわりぶりです。個人的に驚いたのは、背面カメラの画素数を前機種と変わらぬ800万に据え置いたこと。無意識に1000万画素は超えるだろうと踏んでいた自分は少なからず落胆しました。ところが理由を聞くにつけ、画素数競争の不毛を今更ながら思い起こすとともに、思わず心中でつぶやきました。「ああ、Appleは変わっていない」と。

 同社の開発手法は、「ユーザーの体験」を重視することで知られています(関連記事)。大事なのはいい写真を撮影できることであり、闇雲に画素数を増やしても意味がないというわけです。「iPhone 5s」の目玉機能である指紋センサも同様です。分解用に買った端末を何度か使ってみた限り、既存の機種でパスワードを入れるのが嫌になるほどの出来栄えでした。

 一方で、改善されたカメラ機能や指紋認証機能が、消費者の購買意欲をどこまで刺激するかは微妙だと考えています。日本国内の報道には、iPhoneの売れ行きに陰りが見えるとの見方があります(日本経済新聞電子版の記事)。Apple社は発売後の3日間で新機種を900万台販売したと発表していますが(同社の発表資料)、その多くが流通在庫だという説もあるようです(The Vergeの記事)。